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第11回 課題形成系の思考力を鍛える
井上オフィス代表 井上 健一郎
PIXTA
思考力には2つの種類があるということを前回述べました。情報処理系と課題形成系の2つです。
この思考力は、チームの生産性を高めるためにかなりキーとなる部分です。特に課題形成系の思考力は、チームの創造性を高めるために極めて重要です。
学生時代も社会でも、課題形成系思考力を鍛える場面は少ない
課題形成系思考は、非常に重要なのですが、残念ながらその思考力を訓練する場面が極めて少ないのが現状です。
まず、学生時代についてですが、学生時代の勉強は、ほとんど入試対策のためにされています。実は、その入試が問題で、入試が求める思考力は、記憶を中心とした情報処理系の思考なのです。ですから、勉強も情報処理系の思考を訓練するものになっているのです。
偏差値は情報処理系の思考力の差を表していると言っても間違いないのです。
また、社会に出た後の仕事の場面でも、まず業務をしっかり遂行することを求められますから、情報処理系の思考力を発揮しなければいけないことが多くなります。日経BP社から刊行されている「ホンダイノベーションの神髄」(小林三郎・著)では、企業活動を執行活動(オペレーション)と創造(イノベーション)に分けた上で、企業活動の95%はオペレーション活動で、2~5%がイノベーション活動だと述べています。この説をみても、いかに情報処理系の思考力を求められることが多いか、そして課題形成系の思考を発揮する場面が少ないということが分かります。(ただし、企業価値をあげるためにはイノベーション活動が重要です)
このように、課題形成系思考はあらゆる場面で鍛えられる機会が少なく、その結果、課題形成系思考力を持っている人も少なくなっているのです。
前回、課題形成系思考力を見極める方法について述べましたが、みなさんのチームのメンバーの中に課題形成系思考力の片りんを感じたら、大変貴重な存在ですから大切に育成しなければいけません。
課題形成系思考力のポテンシャルがあるメンバーを育てる
課題形成系の思考力の発見の仕方として、実際に下記のようなことをやらせてみるということを前回述べましたが、その機会は是非作ってください。できれば、最初はメンバー全員にやらせてみて、比べてみることをお勧めします。そのほうが、みなさんも分かりやすいと思います。
・プレゼンテーション資料の作成
・各種レポートの作成
・チームのスローガン作りや活動目標の設定
・チーム内のイベントの企画・実施
・チームの問題点の発見とその根本的原因の究明、そして解決策の提案
そして、メンバーの中に期待できる人がいたら彼らを優先して、課題形成系思考力の育成に着手しましょう。決して、みんな同時に育成しようとしないでください。以前示したように、意識と思考のあり方によってメンバーは4つのタイプに分かれ、その中で課題形成系の思考力を持っているメンバーが「デキる人財」の最有力候補だからです。
このメンバーを育てる方法のキーワードは2つです。ひとつは、「アウトプットさせる」ということ、そしてもうひとつは、「思い切り任せる」ということです。
思考力を鍛えるためにアウトプットさせる
課題形成系の思考力を鍛えるためには、常に考えさせることが大事です。目的は、
・大局的思考
・本質的思考
・情報統合
・仮説組み立て
・課題設定
・施策立案
という思考を使って考える習慣をつけさせるためです。
はたしてその思考を使っているかどうか確認するためには、考えていることを表に出させなければ分かりません。そこで、あらゆる場面で考えていることを表に出させるアウトプットさせる必要があるのです。
そのためには、「君の意見は?」という突然の問いかけを機会あるごとに行うことをお勧めします。
会議や打ち合わせの場では常に問いかけのタイミングをうかがってほしいです。できれば、外部との商談という場面や、社長への報告会という緊張する場面に同席させ、その席で思い切り「君の意見は?」と聞くのも効果的です。
その場合に、一言だけ付け加えてほしい言葉があります。「結論が出ていなくてもいいから、今の段階の君の意見や感想を聞かせてくれ」という言葉です。思考のプロセス段階をアウトプットすることは、その後の思考を整理する上でも効果があるということと、何より結論にいたっていなければいけない、という無用なプレッシャーをかけないためです。
アウトプットのもうひとつの方法は、書かせることです。会議や商談などについてまとめさせるというのが効果的です。注意しなければいけないのは、どんな話があったかという議事録をまとめさせることではないということです。
・話の内容
・議論のポイント
・今後の方針
・本人の意見
を反映させた内容にさせることが大事です。
思い切り任せる
課題形成をしながら、問題解決や新しいアイディアを生み出すためには、制約条件を多くしてはいけません。「これはしてはだめ」「この範囲の中で考えろ」という条件がついてしまった時点で、
・大局的思考
・本質的思考
・情報統合
・仮説組み立て
・課題設定
・施策立案
という思考は制限を受け、働かなくなります。
これらの思考をフル回転させなければ、訓練になりませんから、リーダーは思い切って難易度の高い仕事を任せる勇気が必要です。ただし、放っておけということではありません。途中経過などについて報告させる必要はありますし、相談したいと言ってきたら相談にのらなければいけません。ただし、あなたの意見を先に言うことだけは避けてほしいのです。どんなときも「君はどう考える」という問いかけをはじめにしてほしいのです。
もし、考えが弱いと感じることがあった場合のあなたの問いかけは次のようなものにしてください。
・それは何のため?
・なぜそうなるのだろう?
・もっと情報はないの?
・ポイントは何なの?
・他のアイディアは考えた?
つまり、広い視野を持たせることを第一に考えてほしいのです。本人にとっては答えを教えてもらえない苦しさがつきまといますが、課題形成系の思考を訓練するためには、乗り越えなければいけない大切な壁なのです。
◇ ◇ ◇
井上オフィス代表。人材開発・組織構築コンサルタント。中小企業診断士。日本経営教育研究所顧問。概念化能力開発研究所上席研究員。
慶応義塾大学卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントで制作、営業、プロモーションを経験。責任者としても数多くのプロダクツを手がける。その経験を生かし、現在、企業の組織構築を人材の側面から支援している。特に、「人材アセスメント」による人材の能力分析と、その結果を活用した組織構築、人材能力開発には定評がある。また、人材育成型の評価制度「LADDERS」を開発。評価制度の導入と運用の支援を行っており、導入実績企業は5年で100社に及ぶ。最近では、リーダーの育成に関する企業からの要請が増え、教育・研修という面で幅広く活躍している。著書に『部下を育てる「ものの言い方」』(集英社)がある。
ホームページ http://www.i-noueoffice.com/
[この記事はBizCOLLEGEのコンテンツを転載、2012年9月10日の日経Bizアカデミーに掲載したものです]