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第14回 メンバーの行動をマネジメントする方法(3)正しい優先順位をつけて仕事ができない部下の行動を改善する
井上オフィス代表 井上 健一郎
PIXTA
今回も、メンバーの行動に関する指導法について述べます。
優先順位がつけられない
みなさんは、メンバーの行動を見ていて「何て効率の悪い仕事の仕方をしているんだろう」と感じることはありませんか?
私は、仕事柄多くの会社の評価会議に出るのですが、その席でも、部下の問題行動について「優先順位がうまくつけられない」と発言する上司の方が非常に多いことに驚いています。その上司の方々に対して私は、「どのような問題が起こっているんですか?」と質問するのですが、答えの多くは以下のようなことです。
1.締め切り期限が守られない
2.いつもドタバタとしている
3.切羽詰まって、いい加減な仕上がりになる
4.いつまでも手をつけないで放っておく
確かにこれらの現象は、優先順位が上手につけられていない結果として現れることが多いと思いますが、なぜそれほど多くの人たちが優先順位をつけられないのでしょう。
おそらく、目の前のことに目が奪われ全体的な視野で物事を捉えられないことが原因となるケースがほとんどだと思いますが、日常の業務の中に埋没していると全体的な視野で今の自分の状態を見るということは、なかなか難しいことであることも事実です。
上司も、「よく考えれば分かるだろう」と考えがちですが、そう簡単ではありません。
日常業務のやり方の工夫で、優先順位を上手につけられる方法がないものかどうか、その辺りについて考えてみたいと思います。
そのために、まず優先順位をつけるときに意識しなければいけないことについて述べます。
ベストタイミングとデッドライン
優先順位は、自分自身の時間管理と密接な関係がありますから、時間の捉え方について考える必要があります。
時間には、二つの要素があります。一つは、締切りというデッドラインです。これは、誰もが意識せざるを得ないもので、これに追われて仕事をすることが多いのです。もう一つは、締切りのように区切られた時間ではなく、より適切なタイミングです。
例えば、重要顧客から依頼された調べものなどについては、たとえ急ぎではないと言われてもできるだけ早く対応することが関係性を高めるためには大事です。また、企画書を作成するときなども、締め切りギリギリに書くよりは、あらかじめ何回か書き直す時間を考慮して作成プランを立てることが、仕事の質を高めるためには大事なのです。
この二つの時間は、ハーツバーグの「動機づけ・衛生理論」を借りるとすると、デッドラインは衛生要因(それがないと、人々に不満を起こさせる要因)、ベストタイミングは動機づけ要因(それがあると、人々に満足を与える要因)ということになります。
リーダーは自分の都合で指示をださない
生産性をより高いチームにすることを目指すリーダーであれば、衛生要因ではなく動機づけ要因を重視する必要があることはお分かりいただけるでしょう。つまり、優先順位を考えるときには、その仕事がベストタイミングで行うべき内容なのかどうかを先に考慮するべきなのです。そして、まずベストタイミングで対応すべき度合いで順番づけをするのです。
そして、次にデッドラインの状況を見ます。
このふたつの状況を鑑み、週単位で優先順位を付けます。今日・明日の優先順位はほとんどデッドラインに影響されますから、自分の行動計画をたてるためには、最低でも週単位の時間の幅はほしいものです。
メンバーにこのような手順で優先順位を決める習慣をつけさせるためには、リーダーであるあなたも、指示を出すときに、ベストタイミングとデッドラインを意識して出さなければいけません。なんでもかんでも自分の都合で「明日までにね!」という指示をださないようにしましょう。
次に、時間の使い方の優先順位について述べたいと思います。
時間割を作る(時間を配分する)
優先順位をつけるということは、自分の行動計画を立てることと同じです。計画に落とし込まれた予定がなければ、途中で他の仕事が生じたときにすばやく対応することができません。
行動計画を立てるときに重要なことは、時間配分です。何を配分するのかというと、次の3つの時間です
1.考えるための時間
2.コミュニケーション(情報伝達・交換)のための時間
3.実作業の時間
いい仕事をするため、生産性を高めるために絶対的に重要なことは、考える時間を確保することです。考える時間は事後と事前とありますが、それぞれ重要性の意味あいが異なります。
事後に考える時間は、振り返ることによって知恵を蓄えるための時間です。一方事前に考える時間は、知恵を活用するための時間です。両者の時間がないと仕事の質は高めることができません。よく、動きながら考えるという人がいますが、動きながらの考えはとかく目先のことに焦点があうことが多く、長期的なテーマを考えることは余程でない限りできません。
残念ながらこの考える時間をしっかりスケジュールに反映している人は少ないのが現状です。しかし、仕事のデキる人は必ず何らかの方法で考える時間を作り出しています。
1.5倍の時間を見積もっておく
また、情報伝達のための時間もフィックスしている人はほとんどいません。相手から電話やメールがきたときにそれに対応する、必要が生じたので自分から連絡するという半ば成り行きで情報交換をしているのが現状です。
しかし、情報は仕事における酸素のようなもので絶対に必要なものです。そのために、情報交換、情報伝達というコミュニケーションのための時間もしっかりスケジュール化することをお勧めします。
通常スケジュールに作業を書き込まない人はいません。作業の時間配分をするときに重要なことは、見積もり時間です。ある作業を1時間でやろうと計画を立てた場合、その作業のための時間配分は1.5倍の1時間30分で割り振るのです。
このようにして、1.5倍の見積もり時間を時間配分する習慣をつけておくと、余裕を持てますので、むしろ作業効率は高まることが多いのです。また、イレギュラーな事態が発生したときにも同じく余裕を持って対処できるのです。
また、作業の効率を高めるためには、集中力が大事です。人間の集中力はそんなに長く持ちません。特に同じことに関しては、せいぜい50分程度が限界とも言われています。集中力を切らさないためには、作業をおよそ1時間程度で区切った時間割を作っておいて、トラブルなどが発生しない限りその時間割に従って行動するといいでしょう。
このように、3つの時間を配分した時間割を持っていると、仕事をより良くし、生産性を高めることができます。メンバーにも時間割を作る指導を是非してほしいものです。
以下は、私が「生産管理」という仕事をしていたときの時間割の事例です。すべての商品の日ごとの売り上げ状況から在庫数を調整し、生産数を決定するというのが主な職務でしたが、この時間割のとおりに動くようにしてみるとそれまでに比べ何倍も仕事をこなせました。参考にしてください。
特に、連絡業務は作業時間と考える時間には一切せず、まとめて行っていたことは非常に効率をあげたように記憶しています。
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井上オフィス代表。人材開発・組織構築コンサルタント。中小企業診断士。日本経営教育研究所顧問。概念化能力開発研究所上席研究員。
慶応義塾大学卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントで制作、営業、プロモーションを経験。責任者としても数多くのプロダクツを手がける。その経験を生かし、現在、企業の組織構築を人材の側面から支援している。特に、「人材アセスメント」による人材の能力分析と、その結果を活用した組織構築、人材能力開発には定評がある。また、人材育成型の評価制度「LADDERS」を開発。評価制度の導入と運用の支援を行っており、導入実績企業は5年で100社に及ぶ。最近では、リーダーの育成に関する企業からの要請が増え、教育・研修という面で幅広く活躍している。著書に『部下を育てる「ものの言い方」』(集英社)がある。
ホームページ http://www.i-noueoffice.com/
[この記事はBizCOLLEGEのコンテンツを転載、2012年10月22日の日経Bizアカデミーに掲載したものです]