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第10回 仕事の質を高める頭の良さ~「思考力」の2つの種類~
井上オフィス代表 井上 健一郎
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みなさんは、「頭のいい人」というとどんな人を思い浮かべますか?
・仕事の覚えが速い
・仕事をテキパキとこなす
・要領がいい
・プレゼンがうまい
など、いろいろなイメージを持たれると思いますが、実は、「頭の良さ」には大きく分けて2種類あることをご存知でしょうか?
「業務遂行能力」と「仕事の質を高める」思考力
頭の良さということは、ビジネスの世界では思考力が高いということと同義と捉えていいでしょう。
ところで、「思考力」とは、いったい何でしょうか? その問いに答えるために、まず「思考」のメカニズムを確認したいと思います。
通常、人は外から得た情報に反応して、発言や行動というアウトプットを決めます。その間、頭の中で情報を加工するわけですが、その加工工程が「思考」にあたるのです。
加工の仕方は、それぞれ人によって千差万別で、厳密に言えば、全く同じ加工の仕方をする人はいません。つまり、人それぞれ加工の仕方の差があるので、思考の差異が生まれていると言えるのです。
加工の仕方は千差万別ですが、大きな方向性として二つの傾向に分けることができると私は考えています。
その一つは、自分の業務をテキパキとこなすために必要な思考の仕方です。仕事の覚えが速い、または覚えた仕事の再現力が高い、状況を理解できるというような能力を支えるのがこの思考の仕方で、私は「情報処理系」の思考と言っています。
もう一つは、問題解決や新しいアイデアを生み出すために必要な思考の仕方です。問題解決をするにも、新しいアイデアを生み出すにも、取り組むべき課題・テーマを導き出すことが重要ですので、この思考の仕方を「課題形成系」の思考と言っています。
情報処理系の能力は業務を見ていれば分かる
情報処理系の思考について、その特徴としては
・新しい仕事をすぐ覚える
・会議などで、いろいろな意見を整理してまとめることができる
・業務の処理能力が高い
・計画的に動ける
・動きにムダがない
というような点を挙げることができます。
これらを支える思考力は、
・情報整理
・情報分析
を中心としたもので、インプットした情報から優先順位づけや最適手段の選択を可能にしています。
これらは、通常業務の状況を見ていれば分かりやすいものですので、一般的に「彼は頭がいい」と言われる場合、この情報処理系の思考力が高いことについて言っていることが多いように思います。
課題形成系の思考の仕方は、通常では見えにくい
これに比べて、課題形成系の思考については、実際に問題が発生した時などでないと分かりにくく、通常においては見えにくいものです。そのため、こちらの頭の良さは平常時には分かりにくく、場合によっては把握することができないまま終わるということもあります。
その課題形成系を構成する思考は以下のものです。
・大局的思考
・本質的思考
・情報統合
・仮説組み立て
・課題設定
・施策立案
中でも、情報統合という思考が非常に重要です。
情報統合とは、読んで字のごとくいくつかの「情報」を合わせることですが、ただ単に合わせるというよりは、合わせた結果から新しい事実を発見することを言います。例えば、最近発刊されたいくつかの本を見て、そこから時代の背後に流れる潮流・トレンドというものを嗅ぎ取る力のようなものです。いくつかの具体的な情報や事実から共通する要素を見つけ出せる力です。
このように情報統合しなければ見えない部分にこそ、本質的な要素が隠されていることが多いですから、極めて重要な思考なのです。
課題形成の質を、この情報統合という思考が決めると言っても過言ではないでしょう。
見えにくい課題形成系の思考力を読み取る方法
情報処理系の思考力は、通常の業務遂行状況を見ていると比較的見えてきますから、リーダーは注意深くその状況を観察する必要がありますが、それでは見えにくい課題形成系の思考力はどのようにして見ればいいのでしょうか。
ひとことで言うと、「課題形成系の思考力がないとできないこと」をやらせてみるということになります。例えばマニュアルをゼロから作らせるというようなことです。その際、いつも自分がやっていることを羅列するだけでなく、誰もが分かりやすく、読み手にその仕事の意味を伝えられるものであることが望ましいですから、前述の
・大局的思考
・本質的思考
・情報統合
・仮説組み立て
・課題設定
・施策立案
という思考を使う必然性が生まれます。
上記の思考の差異によって、できたマニュアルの完成度が変わりますから、同時に複数の人に作らせて比べてみるのもいいでしょう。
マニュアルの例を挙げましたが、その他にも次のようなことが有効です。
・プレゼンテーション資料の作成
・各種レポートの作成
・チームのスローガン作りや活動目標の設定
・チーム内のイベントの企画・実施
・チームの問題点の発見とその根本的原因の究明、そして解決策の提案
etc.
かつて、ある社長さんが、新入社員の力量を見るために、その年のすべての宴会の幹事をやらせているとおっしゃっていました。先輩社員も一切口出しをせず、彼らに与えられるのは予算だけという状態にするそうです。これも、課題形成系思考を見るひとつの手段と言えます。
みなさんも、自分の職場環境に適したやり方でいろいろなことにメンバーを使ってみてはいかがでしょうか。
やらせてみて分かる重要な副産物
実は、「課題形成系の思考力がないとできないこと」をやらせてみるときに、覚えておいてほしいキーワードがあります。
それは、決して「楽をさせない」ということです。
今までやったことがない、自分の力でなんとかしなければならない、という苦しい状況に追い込むことで、平常時とは異なる状況ができあがります。それはまさに本人にとってたったひとりで立ち向かう有事といえる場面で、自分の力で本質的な部分を見たり、あらゆる情報を統合しなければ答えにたどり着けないのです。
その人の内面にある課題形成系の思考を引き出すための場面を設定した状態です。
また、そのような苦しい状況を乗り越えるためには、本人の意識が強く働かなければなりません。その意識とは次のようなものです。
・問題意識
・当事者意識
・責任感
・自立性
・自律性
実は、これらの意識がしっかりあるかどうかが分かるという副産物を得ることもできるのです。
リーダーのみなさんには、ぜひ課題形成系の思考を引き出す機会を作っていただきたいものです。
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井上オフィス代表。人材開発・組織構築コンサルタント。中小企業診断士。日本経営教育研究所顧問。概念化能力開発研究所上席研究員。
慶応義塾大学卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントで制作、営業、プロモーションを経験。責任者としても数多くのプロダクツを手がける。その経験を生かし、現在、企業の組織構築を人材の側面から支援している。特に、「人材アセスメント」による人材の能力分析と、その結果を活用した組織構築、人材能力開発には定評がある。また、人材育成型の評価制度「LADDERS」を開発。評価制度の導入と運用の支援を行っており、導入実績企業は5年で100社に及ぶ。最近では、リーダーの育成に関する企業からの要請が増え、教育・研修という面で幅広く活躍している。著書に『部下を育てる「ものの言い方」』(集英社)がある。
ホームページ http://www.i-noueoffice.com/
[日経Bizアカデミーの記事を再構成]