変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック

PIXTA

PIXTA

求められる経営感覚

リーダーは、自チームの成果をあげることを求められますが、ただ経営の指示に従って業務を遂行すればよいというものではありません。経営当事者としての意識を持って、会社の発展のための新しい取組みを考えていかなければいけないのです。

下図をご覧ください。利益への貢献が直接的か、間接的かということを縦軸に、業務の内容が決められたことをきちんとこなすことが必要か、新しいものを自ら生み出すことが必要かということを横軸にしたマトリクスになっています。

この図は、業務がどのような機能を果たしているかを見るための軸となるもので、例えば営業部内の業務の機能をこのマトリクスにプロットすると次のようになります。

イメージはつかめましたでしょうか。例えば「マーケティング」という仕事は、直接的に利益に関わる仕事で、維持的な側面もありますが、より新しいものを生み出すための機能が必要になるということです。

これら各機能の中で、右半分の領域「直接・間接とも新しいものを自ら生み出す」ことは、リーダーが先頭にたってやらなければいけないとても重要な機能なのです。この領域はまさに「考える仕事」で、チームの全体の動きを見ているリーダーでしかできない領域と言っても過言ではありません。

そして、何のために新しいものを生み出す必要があるかと言えば、会社の発展のためですから、そのための「考える仕事」というのは、まさしく経営視点が必要な仕事なのです。

経営視点を持っているリーダーは、経営の「当事者意識」(Sense of Ownership)を持った人間として、会社の中で重要な存在感を示すことになるのです。

リーダーは情報にこだわって「場」を作る

新しいものを生み出すために、リーダーは常に考えている必要がありますが、考えるための材料がなければ何も生み出すことはできません。「ひらめき」を得るために材料となる「情報」をたくさん仕入れておく必要があるのです。

ここでは、リーダーが情報をたくさん仕入れるためのいくつかの工夫について述べさせていただきます。

(1)情報が共有される「場」を作る

メンバー個々が持っている情報を常にチーム全体が共有できているという状態は、放っておいてできるものでは決してありません。メンバー同士で対話する場面が日頃から非常に多い職場であればそれも可能ですが、ほとんどの職場は日常の業務に全員が没頭しているため、情報を共有しあうことは難しいのです。情報の共有度を高めるためには、あえて情報を共有する必要性のある「場」を作らなければいけないのです。その「場」では、メンバーそれぞれが相互に関連しあいながらお互いの持っている情報を重ね合わせ、ひとりではできない新しい知恵を生み出すのです。

リーダーは、そのような「場」を作ることを心がけなければいけません。情報共有のための「場」は、次の3つの方法で作ることができます。

・情報交換・共有を目的としたミーティングを設定する

通常行われている会議やミーティングは、何かを決定するため、もしくは進捗を確認するために行われることが多いのですが、そこでは議題に関係のない情報について触れることがほとんどありません。そこで、議題のない「情報交換・共有」だけを目的としたミーティングを設定することをお勧めします。このミーティングでの情報交換の質が高まれば、それまで表面化してこなかった問題や、未解決のままだった問題などがクローズアップされることになり、新しい解決策を生み出すこともできます。

ある会社で、週に1回、時間を1時間と決めてメンバーが持っている情報や気づきを発表しあうミーティングを行ったところ、それまで非常に多かったお客さんからのクレームが激減したというケースも実際にあります。

・各種プロジェクトを立ち上げる

情報交換をすることによって新たに判明した問題について、プロジェクトを発足させて問題解決にあたるということも、メンバーが相互に関連しあいながら新しい知恵を生み出すための有効な手段になります。

チーム全員ではなかなか発言の少ないメンバーも、少人数のプロジェクトでは自分の意見を言う機会も増えますし、少人数であることはまたメンバーの責任感を喚起することができます。

多くの会社で、プロジェクトに参加した後、メンバーの意識が高くなったという実績があることも、プロジェクトの有効性を物語っていると思います。

難しく考えずに、いろんなことをプロジェクト化するのが良く、忘年会プロジェクトなどというのも、新人を参加させるいい機会になることは間違いありません。

・職場内にみんなが集えるスペースを作る

できることならば、チームのみんながいつでも集えるスペースを作っておきたいものです。そのようなスペースのある会社では、そこが気楽な情報交換の「場」になっていることが多く、オフィシャルではない時間に問題解決の機運が高まるという効果も期待できます。

ランチをする、休憩を取るということに使われることが望ましく、リーダーは率先して「おやつ」をその場に置いておくくらいの気遣いをした方がいいのです。また、そのようなスペースがあると、あえて会議室に入ることなくいつでもミニミーティングを行うことができるので、機動性も高まりますし、みんなが見ているその場で語られていることは自然とみんなに浸透しやすいものとなります。「あーあの時、みんなが話していたあのことね……」というような感じです。

(2)歩き回る

メンバー個々が持っている情報を機敏に収集するためには、リーダー自らがメンバーのそばに行って話すことがとても重要です。可能な限り「歩き回る」リーダーの耳には新鮮な情報が瞬時に入ってきますし、リーダーが考えていることをメンバー個々に浸透させることもできるのです。

アメリカでも、トップ自ら現場に赴き接点を多く持つことの有効性を「management by walking around」と言って推奨しています。

業務の実態はまさに現場でしか見て取ることができません。営業などメンバーが日頃外出しているような仕事においても、リーダーは機会あるごとにメンバーに同行して業務現場で話をすることは重要です。

(3)会社に報・連・相

「場」を使っていろいろな情報を集め、チーム内に「考える習慣」がつくと、リーダーに集まる情報やメンバーからの知恵のレベルが格段にあがります。そうすることで、リーダーはより高い視点、経営的な視点で物事を考えることができますから、リーダーの新しいものを生み出す力は格段にあがります。また、リーダーの視点が高くなれば、メンバーの意識もさらに高まるというようにしてチームの創造性は上昇スパイラルを描くのです。

ここでリーダーが怠っていけないことは、経営層への報連相です。なぜならば、そのような素晴らしい取組みを1チーム内で終わらせるのではなく、できることならば全社的な動きにしたいからです。また、自分たちの取組みについて経営層が理解してくれていることをメンバーが知ることは、チームのモチベーションアップに直接つながるからです。

◇   ◇   ◇

井上健一郎(いのうえ・けんいちろう)
井上オフィス代表。人材開発・組織構築コンサルタント。中小企業診断士。日本経営教育研究所顧問。概念化能力開発研究所上席研究員。
慶応義塾大学卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントで制作、営業、プロモーションを経験。責任者としても数多くのプロダクツを手がける。その経験を生かし、現在、企業の組織構築を人材の側面から支援している。特に、「人材アセスメント」による人材の能力分析と、その結果を活用した組織構築、人材能力開発には定評がある。また、人材育成型の評価制度「LADDERS」を開発。評価制度の導入と運用の支援を行っており、導入実績企業は5年で100社に及ぶ。最近では、リーダーの育成に関する企業からの要請が増え、教育・研修という面で幅広く活躍している。著書に『部下を育てる「ものの言い方」』(集英社)がある。
ホームページ http://www.i-noueoffice.com/

[この記事はBizCOLLEGEのコンテンツを転載、2012年12月3日の日経Bizアカデミーに掲載したものです]

<< 第16回 部下に納得してもらえるリーダーシップとは

新着記事

Follow Us
日経転職版日経ビジネススクールOFFICE PASSexcedo日経TEST

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック