【著者が解説】池上彰のやさしい経済学

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2012/6/8  (1/3ページ)

 今回は国際貿易のあり方について考えます。いま日本では、TPP参加が大きな議論となっています。でも、私たちはなぜ、ほかの国々と貿易をするのでしょうか。TPPを理解するために、まずはそもそも国際貿易は何のためにするのかということを、経済学的に考えていきます。

 国際貿易において、非常に大事な概念があります。それは「比較優位」という考え方です。これはイギリスの経済学者デヴィッド・リカードが発見した、貿易の大原理です。それ以来、国際貿易というのは世界の常識になりました。リカードはアダム・スミスの『国富論』に影響を受け、自由貿易を唱えました。2国間で貿易をすると、実は両方の国にとって非常にいいことがある、ということを発見したんですね。どういうことでしょうか。次の例で見ていきましょう。

 まず、A国とB国がそれぞれ労働者200人で、小麦と自動車を生産するとします。まず小麦について、A国は労働者100人で生産量が1000、一方B国は、同じ労働者100人で生産量は900です。全体の小麦の生産量は、合計1900です。次に自動車ですが、A国は労働者100人で生産量が500、B国は労働者100人で生産量が300です。全体の自動車の生産量は、合計800です。A国は、小麦も自動車もB国より絶対的に生産効率がよいですよね。これを絶対優位と言います。

 上記のように、生産力は小麦も自動車もA国のほうがB国よりも絶対的に優位ですが、相対的に見るとどうでしょうか。小麦はA国が1000、B国が900なので、B国はA国の9割の生産があります。一方、自動車はA国が500、B国が300ですから、B国はA国の6割の生産しかありません。このように相対的に見れば、B国はA国に対し、小麦生産のほうが優位だということがわかります。

 そこで、A国とB国がそれぞれ得意分野に専念して、それ以外のものは相手国から輸入しようと考えたとします。A国は200人の労働者のうち、生産性の高い自動車に180人、小麦に20人注ぎ込み、自動車900、小麦200を生産できるようになりました。一方、B国は相対的に優位な小麦の生産に特化し、労働者200人全部を小麦の生産に注ぎ込み、小麦1800を生産できるようになりました。A国とB国の生産量を合計は小麦2000、自動車900となり、先ほどよりも小麦、自動車ともに全体の生産量が増えました。

 A国はどちらの生産量も絶対的に多いのだから、小麦も自動車も自国で生産して賄えばいいじゃないかと思いますよね。でも、B国が相対的に優位なものの生産を行って、A国、B国それぞれが自国の得意とするものの生産に特化し、他は貿易によって賄うことで、より多くのものを得ることができる、全体の利益が高まる。これが、国際貿易は双方にとって利益があるという経済理論です。

>> 世界大恐慌をきっかけに、自由貿易促進の取り組みが行われた

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