【著者が解説】池上彰のやさしい経済学

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2012/6/8  (3/3ページ)

なぜ日本はTPP参加へ向けて動き出したのか?
~FTA締結を急速に増やす韓国の動きが日本を焦らせた

 TPPは、Trans-Pacific Partnershipの略です。transというのは「環」という意味ですから、太平洋を取り巻く国々が戦略的に経済の連携をしていきましょう、つまり関税をなくしていきましょう、ということです。また、関税だけでなく金融商品も自由に売買できる関係をつくろうという話も進んでいます。

 当初は、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4カ国だけで始まりました。シンガポールは工業が盛んです。ブルネイは石油、天然ガスが大量に出る国で、チリとニュージーランドは農業国です。この4カ国で関税を全部自由にすれば、お互いにとって非常にいいよね、ということでTPPは始まりました。これに目を付けたのがアメリカ、オーストラリア、ベトナム、マレーシアといった国々です。自分たちも参加したいと、一挙に交渉することになります。この状況を見て、日本は慌てました。こういう国々でどんどん関税を自由にしていくことになったら、日本は立ち後れてしまうのではないか、それなら日本も入ったほうがよいのではないか、という議論になったのです。

 なぜ、日本は参加に向けて動き出したのでしょうか。実は韓国がすごい勢いでFTAを増やしていることが関係しています。韓国ではTPPに参加する動きはありません。すでにそれぞれの国と個別にFTAを結んでいるので、わざわざTPPに参加しなくてもよいのです。日本よりも韓国のほうが、一歩も二歩も進んでいるのです。

 韓国は、アメリカやEUともFTAを結んでいます。アメリカとは2007年に締結し、12年3月に発効しました。アメリカにおける日本と韓国の関税を比較してみると、日本の普通の自動車には2.5%、トラックにはなんと25%もの関税がかかるのに対し、韓国の自動車は、5年後に関税が完全に撤廃されます。サムスンやLGのテレビなどの電気製品も同じです。そもそも自動車も電気製品も、韓国製のほうが日本よりずっと安いのに、そのうえ日本製品に関税がかかる。どちらが勝つかは火を見るより明らかです。

 いまアメリカに置いてあるテレビは、かつて日本製だったものがサムスンかLGになっています。ヨーロッパでもそうです。このままでは、日本は韓国に負けてしまう、これは大変だということになって、日本政府が大慌てをしてTPPに参加しようとしているのです。

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次回は、「インフレとデフレ」を取り上げます。

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池上彰のやさしい経済学―2 ニュースがわかる

池上彰著、テレビ東京報道局編
出版:日本経済新聞出版社
価格:1,620円(税込み)

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池上彰(いけがみ・あきら)

ジャーナリスト・東京工業大学教授。

1950年、長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、1973年にNHK入局。報道記者として、さまざまな事件、災害、消費者問題、教育問題を担当する。1994年から11年にわたり「週刊こどもニュース」のお父さん役として活躍した。2005年3月にNHKを退職しフリーに。書籍やテレビ番組でニュースをわかりやすく解説することで幅広い人気を得ている。2012年より東京工業大学リベラルアーツセンター教授。

著書に『そうだったのか!現代史』『伝える力』『池上彰の20世紀を見にいく』など多数。

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