【著者が解説】池上彰のやさしい経済学

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2012/6/15  (2/3ページ)

みんなが同じ行動をとることによって生じる「合成の誤謬」
~個人が合理的な行動をとっても、全体としては悪い事態になる~

 それでは、インフレとデフレについて、もう少し具体的に考えてみます。たとえば、欲しいものがあったとします。価格は100万円です。この値段が来月は110万円、その翌月は120万円に上がるとわかっていたら、みんな安い今月のうちに買おうとしますよね。そうやってものがたくさん売れると、生産が追いつかなくなります。値段を上げても売れるから、ものの値段はどんどん上がっていく。値段が上がっていくほど、みんな早く買おうとします。

 インフレでものの値段が上がっているときに本来やるべきことは、みんなが買うのをぐっと我慢することなんです。そうすれば需要がおさまりますから、物価の値上がりがおさまる、あるいは穏やかになります。でも、安いうちに買うことを我慢するなんて、なかなかできませんよね。結局みんな一人ひとりが早く買おうとする。自分だけが早く買えば得をするかもしれませんが、みんなが同じ行動をとります。

 みんなが同じ行動をとると何が起きるでしょうか。たとえば、サッカー観戦でみんなが座っているときに、1人だけ立ち上がるとよく見えますよね。でもみんなが同じことを考えて一斉に立ってしまうと、結局みんなが前より見えなくなってしまいます。これを「合成の誤謬(ごびゅう)」と言います。誤謬というのは誤りという意味です。

イラスト・北村人イラスト・北村人

 デフレはその逆です。売れないから、どんどん商品の値段が下がっていく。100万円のものが来月90万円に値下がりするとわかっていたら、翌月まで待ちますよね。またその翌月に「85万円になりそうだ」ということになれば、さらに待つ。みんなが買うことを待つと、ものの値段はどんどん下がっていきます。これも合成の誤謬ですね。

 もともと経済学では、一人ひとりの人間が合理的な経済活動をすることを前提にしています。できれば値上がりする前、あるいは値下がりしてから買いたいと思う。だから、いったんインフレやデフレになるとそこから脱出するのが難しくなるのです。このように、インフレやデフレは人間の心理が大きく作用してます

 インフレやデフレになったときに、何とかそこから脱出するための「インフレターゲット」という金融政策があります。中央銀行が一定の物価上昇率の目標(インフレ目標)を数値で示し、その達成を優先する政策のことです。国民にあらかじめ目標を発表し、これに向けていろいろな努力をするということです。これがうまくいくのかどうかは、学者によってさまざまな意見がありますが、いくつかの国はこの政策をとっています。

 日本銀行は、そううまくいかないのではないかと、なかなかこの政策をとってきませんでしたが、長引くデフレを何とかするため、ついに2012年2月、物価上昇率を年率1%をめど(ゴール)にすると発表しました。

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