【著者が解説】池上彰のやさしい経済学

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2012/6/15  (3/3ページ)

なぜ日本はなかなか不況から抜け出せないのか?
~デフレ→円高→輸出減→不景気→デフレ・・・の悪循環が続く日本経済~

 日本では、バブル崩壊以降の1990年代から2000年代にかけて、デフレ・スパイラルが起こりました。景気が悪いときは金利を下げて企業投資を増やす、というのがケインズの経済政策です。ところがケインズ自身、デフレでものの値段がどんどん下がると、いくら金利を下げても企業は投資をしなくなるという流動性の罠について、「理論的にその可能性がある」と当時は指摘だけしていました。いまの日本経済は、まさにその状態に陥っています。

 金利が低い状態でデフレが進むと、いったい何が起きるのでしょうか。いま1万円で買えるものが、来年は9000円で買える。ものの値段が下がっていくということは、お金の価値が上がっていくということでもあります。厳密にいうと違いますが、わかりやすくするためにここではお金の価値が10%上がっていると考えます。

 銀行にお金を預けていても、いまはゼロに近い利子しかつきません。だから銀行に預けないで家のタンスに置いておいても同じです。やや乱暴な言い方ですが、何もしなくても来年はお金の価値が10%上がる、つまり金利が10%付くようなものです。

イラスト・北村人イラスト・北村人

 そうなると、企業はお金を借りて新しい事業に投資しようという気が起きません。なぜならば、投資をして新しい工場をつくったとしても、デフレによって工場の価値がどんどん減ってしまう。すると、投資したお金を回収するのが非常に厳しくなります。それならば、何もしないで現金で持っていたほうが実質的に金利が付くのでいい、ということになってしまうのです。

 この日本の状況は、外国人の目から見るとどう映るでしょうか。日本経済はよくないけれど、日本はデフレだから、円を持っていれば実質的には非常に高い金利がついているのと同じだ、それだったらドルやユーロを円に換えておこう、という人が大勢現れます。こうして、円買いが進み、円高になります。円高が進めば輸出が振るわなくなり、不景気になる。そしてまたデフレが進む。さらに円高が進んでいく。このような経済の悪循環に、いまの日本は陥っています。

 そうなると、お金はそのまま持っているのが一番いいという、貨幣に対する愛情、貨幣愛が強まっていきます。別の言い方をすると流動性選好です。生活防衛のため、お金で持っているのが一番安心だから、投資をしない、ものを買わないというふうに、みんながお金を使わなくなる。みんなが同じことをすれば、合成の誤謬が起きますね。

 いまの日本経済に見通しがつかず、国全体になんとなく閉塞感が募っているわけは、こういうことなのです。続きは本書で・・・。

 今回の記事の内容をもっと読みたい人は、書籍『池上彰のやさしい経済学 1しくみがわかる』で詳しく解説しています。ぜひ手に取ってご覧ください。書籍では、イラストや図解、用語解説が豊富に掲載されており、ひと目でわかる工夫が随所にされております。読むだけでなく、目で見て楽しく無理なく「経済」が学べる1冊です。

 次回は、「なぜバブルが生まれ、はじけたか」を取り上げます。

池上彰のやさしい経済学―1 しくみがわかる

池上彰著、テレビ東京報道局編
出版:日本経済新聞出版社
価格:1,620円(税込み)

池上彰のやさしい経済学―2 ニュースがわかる

池上彰著、テレビ東京報道局編
出版:日本経済新聞出版社
価格:1,620円(税込み)

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池上彰(いけがみ・あきら)

ジャーナリスト・東京工業大学教授。

1950年、長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、1973年にNHK入局。報道記者として、さまざまな事件、災害、消費者問題、教育問題を担当する。1994年から11年にわたり「週刊こどもニュース」のお父さん役として活躍した。2005年3月にNHKを退職しフリーに。書籍やテレビ番組でニュースをわかりやすく解説することで幅広い人気を得ている。2012年より東京工業大学リベラルアーツセンター教授。

著書に『そうだったのか!現代史』『伝える力』『池上彰の20世紀を見にいく』など多数。

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