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今年夏の参院選挙から18歳も投票できるようになるそうね。どうして、今のタイミングで投票権年齢を引き下げることになったのかしら。

選挙権年齢が「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げられたことについて、吉田由美さん(41)と高橋映里子さん(44)が大石格編集委員に話を聞いた。

 急に「18歳」という話が出てきた印象です。

「ほとんどの国で選挙権は18歳からで、中には16歳という国もあります。日本でも引き下げは長年の課題でした。このタイミングで実現したのは、長らく反対だった自民党が賛成に転じたからです」

「その理由の一つは、自民党の党是である憲法改正へ道を開くためです。改憲に必要な国民投票の手続き法を制定した際、民主党などは投票権を18歳以上に与えるように求めました。自民党はいつまでも手続き法ができないよりはましと判断してこれを受け入れました。そうなると、普通の選挙も同じでないとおかしいし、むしろ10代の有権者に早く投票に慣れてもらった方が国民投票への抵抗感も小さくなるだろうということで一気に方向転換しました」

「もう一つ、自民党の背中を押したのが、若者層の保守化傾向です。2014年の東京都知事選で非常に右寄りの主張をした候補が主要政党の支持なしで61万票を獲得して4位に入りましたが、出口調査によると20代では2位でした。若い頃はマルクス主義に走るものだ、などといわれた時代もありましたが、ネットなどへの書き込みをみても最近は極端に保守的な主張を支持する若者が増えています。こうした層は安倍政権と親和性が高いので、世論調査でも20代の安倍内閣支持率は他の年代に比べて高めです」

 18歳は高校生も含みます。政治的な判断力があるでしょうか。

「だからこそ主権者として政治にどう向き合うかの教育が大事なのですが、まずは政治に参加するくせをつけることが重要です」

「投票率が低いのは、不真面目な若者が選挙に行かないせいだと思っていませんか。年代別投票率をみるともちろん20代が一番低いのですが、この20年ほどの変化をみるともともと低かった20代よりも30代、40代の方が落ち込み幅が大きくなっています。国政選挙で最も投票率が低かったのは1995年の参院選の44.52%でした。長年対立してきた自民党と社会党が突然、連立政権を組み、どの党に投票してよいのかがわかりにくい選挙でした。これが初めての選挙だった人はその後も棄権しがちというのが選挙の専門家の見方です。現にこの層の年代が上がるにつれて30代、続いて40代での投票率が加速度的に下がり始めました」

 初めての選挙を迎えるのが20歳か18歳かで違いはありますか。

「人口動態調査などを分析すると、日本人の多くは18歳から25歳の期間に就職や進学などで引っ越しを経験します。東京の企業や大学に入ったけれど、住民票は出身地に残したままなので選挙管理委員会からのはがきが届かない。駅前で連呼しているのはなじみのない名前……などの理由で初めての選挙に行かずじまいという人がかなりいます。高校までは親と同居かつ学校も生まれ育った地元という人が多いので、むしろ高校生で初選挙を迎えた方が選挙運動に身近に接する機会を得やすい。子どものときから知っている隣のおじさんに『○○さんを頼むよ』と話しかけられるかもしれない。そこに上手な主権者教育がなされれば、『選挙は行くものだ』としっかり刷り込みがなされ、棄権しにくい有権者に育つのではないかと期待されています」

 今後の政治には、どんな影響を与えそうですか。

「18歳と19歳の全員が投票所に足を運んでも、そもそも二百数十万人しかいないので、劇的に投票率が上がるわけでも、若者の政治への影響力が一気に高まるわけでもありません。ただ、人口の多い年金世代にばかり受けのよい政治が行われる『シルバー民主主義』に一石を投じる可能性はあります。国と地方を合わせた借金が1000兆円にも上るなか、将来世代に負担を強いる政治でよいのか。日本の未来のことをもっと国民全体で考えよう。そういう機運を高めるきっかけにはなると思います。今年夏の参院選では、年金世代が『若者も結構、真剣だ』と驚くような高い投票率を10代有権者にたたき出してほしいものです」

ちょっとウンチク


被選挙権引き下げも検討を
 選挙権年齢の引き下げは実現したが、被選挙権年齢つまり選挙に立候補できる年齢は従来通り据え置かれた。公職選挙法は衆院選や地方議会選は25歳以上、参院選や知事選は30歳以上と定める。海外をみると、米国は25歳、フランスは23歳、ドイツは18歳だ。日本ももう少し引き下げることを検討してはどうだろうか。
 国や地方自治体のかじ取りを担うのだから、それなりの年齢であるべきだという声をよく聞く。それは選挙のときに個々の有権者が判断すればよいことだ。立候補イコール当選ではないので、最初から門前払いする必要はない。
 いまの政治家は高校生、大学生あたりからみるといかにもおじさんおばさんである。同世代の候補がいれば、もっと政治を身近に感じられるだろう。地方議会ならば1人ぐらい20歳の議員がいる方が議論の活性化につながるはずだ。
 若い者には任せられない。いつの時代もそういわれてきた。若者にも機会を与える。それこそが一億総活躍社会ではないだろうか。
(編集委員 大石格)

今回のニッキィ


吉田 由美さん 団体職員。高校の茶道部以来、ご無沙汰だったお茶に凝っている。「日本文化を改めて勉強し、海外の人にもアドバイスできるようになりたいです」
高橋 映里子さん メーカー勤務。最近、都内の商店街で故郷・秋田県のイベントを手伝った。「本物のなまはげの迫力に皆が感動してくれたのがうれしかったです」
[日本経済新聞夕刊2016年1月4日付]

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