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東芝の会計不祥事では、監査法人も処分されたわ。監査法人って耳にしたことはあるけれど、一体どんな組織で具体的にはどんなことをしているのかしら。

監査法人について、飯塚三枝子さん(47)と向田郁美さん(29)が証券部の三反園哲治次長に話を聞いた。

 監査法人って、そもそも何ですか。

「5人以上の公認会計士が集まって設立する法人です。会社がつくった決算書をチェックする会計監査をし、『決算書は正しい』というお墨付きを与えるのが主な仕事です。これは会計士にだけ認められる業務です。上場会社は金融商品取引法のもと、会計士による会計監査を義務付けられています。資本金5億円以上または負債が200億円以上の会社は、会社法により同様の会計監査を求められます。公認会計士は弁護士や医師と同じく国家資格です」

「会計士は現在、約2万8000人います。上場企業の増加などに合わせ、会計士の数も増えてきました。個人で活動している会計士もたくさんいます。ただ、大企業の会計監査では、100人を超えるチームを組み決算書をチェックします。たくさんの会計士が所属し、事務職員なども抱える監査法人でないと対応できません。約210の監査法人があり、なかでも三大監査法人と呼ばれる法人が特に規模が大きいです。新日本監査法人、監査法人トーマツ、あずさ監査法人の3法人はそれぞれ3000人を超える会計士を抱えています。この3法人で、約3500社ある上場会社のうち4分の3の会社の監査を受け持っています」

 東芝では決算書の虚偽記載が発覚しました。

「東芝の会計不祥事では、監査を担当した新日本が約21億円の課徴金納付命令などを受けました。決算書の虚偽記載の責任は第一に企業側にあります。しかし、もっと注意してチェックしていれば不正に気付いたはずだとして、金融庁は新日本を行政処分しました」

「新日本は東芝から監査報酬として年間ざっと10億円を受け取っていました。この報酬は元をたどれば東芝の株主が払ったものともいえ、監査での怠慢は許されないというわけです。会計監査を巡っては、会社側となれ合いがあり、チェックが甘いのではないかといった懸念が高まっています。東芝の虚偽記載でも明らかなように、問題が発覚すれば監査法人も厳しい処分や社会的な制裁を受け、法人のブランドも傷つきます。監査法人や会計士は『市場の番人』とも呼ばれます。投資家や債権者を守るために監査を担っているのです。監査のプロとして重い責任を自覚する必要があります」

 監査法人にとって今後の課題は何ですか。

「グローバル化に伴い会社の事業内容は多様になり、会計基準も複雑になっています。それだけ会計不祥事が起きるリスクも高まっています。会計士はこれまで、決算書が正しいことを証明するのが会計監査の目的で、不正の発見が第一ではないと言ってきました。しかし、そうした考えのままでは、厳しい監査を期待する市場関係者からの理解は得られないでしょう。不正が行われるリスクがあることを前提に、チェックすることが大切になります」

「特に、会計基準は過去のお金やモノの動きを記録するだけではありません。例えば、ある工場で将来どれだけの利益が出るかを予測して、決算期末での資産価値を評価するようなケースが多々あります。会計処理に経営者の裁量が入る余地があり、数字の単純な確認だけでは監査になりません。不正の兆しを見落とさないよう、場合によっては、抜き打ち検査のような手法も必要でしょう」

 監査法人の仕事は、私たちの日々の生活にも影響しますか。

「公認会計士法第1条に、会計士は『国民経済の健全な発展に寄与することを使命とする』とあります。会計士が決算書にお墨付きを与えて初めて、株主や取引先など社外の人々は財務情報を信用できます。そのおかげで、株式の売買や商取引が円滑に行われ、経済活動が活発になります。会計監査が機能しないと、お互いの信頼に基づく経済活動の土台が崩れます。その結果、景気が悪くなれば消費者も困ります。日々の生活の中で監査法人の仕事に触れることはほとんどありませんが、非常に重要な仕事です。会計士は使命の重要性を自覚し、厳しい監査を続けてほしいと思います」

ちょっとウンチク


経営コンサルも手掛ける
 監査法人や公認会計士の仕事は多岐にわたる。会計や財務など会社の経営に欠かせない専門知識が豊富で、経営に関するコンサルティング業務なども手掛ける。
 企業のM&A(合併・買収)の現場でも、買収される会社の資産内容を調べて評価する業務なども請け負う。大手の監査法人は新規上場を目指すベンチャー企業の発掘や育成にも力を入れている。
 ただ、監査法人が会計監査を担当している会社に対し、監査以外のサービスを同時に提供することは一部、法律で制限されている。他のサービスからの収入に気をとられて、肝心の会計監査が甘くなったら困るからだ。
 また、会計士は税理士として登録すれば、税務申告の代理など税務に関する業務もできる。
 2015年の公認会計士試験は約1万人が受験し1051人が合格した。受験者数は10年の2万5000人超をピークに減り続けている。00年代後半に合格者数が急に膨らんだ際、就職できない人が続出するなどしたため、志望者が減っている。
(証券部次長 三反園哲治)

今回のニッキィ


飯塚 三枝子さん アパレル勤務。昨夏から出勤前に自宅近くをウオーキングする。「日々のあいさつなど、ご近所とのコミュニケーションの機会が増えました」
向田 郁美さん 通信関連企業勤務。出勤前にランニングしている。「走るため早起きするようになったこともあり、朝のだるさがなくなって仕事に集中できます」
[日本経済新聞夕刊2016年2月15日付]

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