ビジネス書ななめ読み

この記事をはてなブックマークに追加 この記事をmixiチェックに追加
印刷
2016/3/11  (1/1ページ)

「スラウォツキーの『伸びない市場で稼ぐ!』(日本経済新聞出版社)が提示している分析は、今の吉野家を理解するうえで非常に有効であると思われる。要するに『市場全体が成長していない中で、あなたの企業はどう成長することができるのか』という課題にどう対応するのかという問題である。

 そこで重要な鍵となるのが、消費者(顧客)のニーズにどこまで踏み込んでいくのかということだ。優れた商品の一本勝負ではなく、多様な顧客ニーズのヒダにまで入り込んでいくような緻密なマーケティングが求められるのだ」(本書・p235)

 経営とは何か、何をどうすることなのかが見えてくる本だ。対談を通じて牛丼の吉野家の経営を指揮してきた安部氏の話を、経済学者の伊藤氏が巧みに引き出していく。そこから経営の具体的な行動が見え、さらにその後景に2000年代初頭からの経済の姿がくっきりと浮かび上がってくる。企業経営のありようを体感できるとともに、経営が生き抜いてきた経済状況も感じ取れるのだ。「経済入門」と名づけた意図はそこにある。

 伊藤氏自身が巻末解説で書いているように「徹底的に細部にこだわった」質問がこの本の面白さのカギだ。牛丼の主要素材、牛肉について聞く中で、伊藤氏は「ついでに伺いますが、スライサーで切る牛肉の厚さにも何か秘密がありそうですね」と尋ねる。すると安部氏が「あります。基本的に1.3ミリというのがうちの規格です」と答える。さらに「季節によって牛肉の質が変わることもあるので、その都度0.1ミリ単位で食感テストをやっています」と続ける。こんな細部から素材へのこだわり、調達の手法、品質向上への取り組み、牛丼の原価などが見え、その向こうに新興国の牛肉需要の拡大や為替状況とのかかわりまでが浮かび上がる。

 こんな調子でBSE騒動のときの危機管理、激化した価格競争への対応、人材育成や伸びない市場でどう稼ぐかといったテーマが縦横に語られていく。安部氏の口から徹底的に具体的な行動が語られる一方で、他社事例や経営理論、経済状況といった視点が伊藤氏から語られ、より広い経営と経済の見取り図が小気味よく広がる。章ごとに置かれた伊藤氏によるテーマ解説も程よいまとめとして対談の意味するところを教えてくれるのもありがたい。

 2002年に同じ組み合わせで出した『吉野家の経済学』の続編になる。その後も世界は動き、経済も転変し、企業も行動し続けた。その軌跡に刻んだ行動の一つひとつがまさに経営なのだと感じさせてくれる。(日本経済新聞出版社・本体1300円)

吉野家で経済入門

著者 : 安部 修仁, 伊藤 元重
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,404円 (税込み)

バックナンバー

この連載の一覧
著者プロフィール