「いくら手法を用いても相手は生身の人間です。気分や体調もあれば、互いの相性によっても振る舞いが変わってきます。やってみないと分からないことも多く、予期せぬことも次々と起こります。
そうなってくると、最後は料理人の経験と腕前にかかってきます。その日集まった素材や組み合わせに応じて、火加減を調整したり、盛りつけ方を変えたり……。ときには料理法をガラッと変える決断もしないといけません。最上段に乗っかる狭義のファシリテーションのスキルがものを言うわけです」(本書・p27)
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会議、ワークショップ、プロジェクト……こうしたチームの活動が手際よく進むように支援するのがファシリテーションだ。企業を含め様々な局面で使われることが多くなり、担い手となるファシリテーターを目指す人もずいぶん増えてきたという。その基本を紹介したのが本書だ。これまで2万人以上のファシリテーターを養成してきたという著者の経験を生かし、わかりやすい一冊にまとめている。
著者によれば、ファシリテーションは闇雲にやっても上達はおぼつかない。まずは「ファシリテーションの基本の“型”を覚えること」だという。その基本の型、すなわち基本動作の4つを順を追って説明していく。基本動作はいたってシンプル。「論点を定める」「真意をつかむ」「考えを広げる」「共通項を見つける」の4つだ。そのそれぞれについて、初級、中級、上級と3段階に分けて、レベルに応じた身につけるべきスキルを解説する構成で話を進める。その中でプロファシリテーターが使うよく使うせりふを合わせて300紹介していく。手探りで始めた人も、ある程度実績を積み上げた人も段階に応じた応用のヒントを本書からくみ取ることができるだろう。
冒頭の引用の中で、著者は料理人の技術にたとえているが、ファシリテーションとは、まさに経験と腕前がものをいう技芸なのだ。それゆえに「型」が大事であり、型に始まって型に終わる。だが、その型を運用するのは使う人それぞれというのももう一つのポイント。型を使いこなすことで使っている人の持ち味が出せるようになり、その人なりのファシリテーションとなって実を結ぶ。あとは勇気を持って実践すべしという著者の一言が背中を押してくれる。(日本経済新聞出版社・本体1600円)