日経キャリアアップ面連動企画

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2016/2/2  (1/4ページ)

 ファーガソンはあめとムチで選手を操るタイプの監督ではありませんでした。むしろ選手たちに雇用契約に基づく上下関係を強いることなく、ましてや転売目的の〝商品〟としてでなく、ステークホルダーとして敬意をもって接していたことが本書からうかがえます。

 「監督業のつらいところは、ユナイテッドにすべてをささげてきた選手に対して、もう居場所はないと告げなければいけないところだ」と吐露。生え抜きのニッキー・バット放出について「バットの移籍金はきちんと条件の整ったクラブに移籍させるための保証だった。現役を引退するその日まで彼はユナイテッドを自分のクラブと呼んでいた」と述べています。

 一見、冷徹な人事に見えるトレードも、選手に新たな活躍の場を与え、現役生活を全うできるよう選手寿命を伸ばすことにつながるのです。

 メディアについて書かれた部分にも興味深い一節があります。世界の新聞38紙が彼の引退を1面トップで報じたことを知り、こう記しています。

 「これだけ大きな特集が組まれたのは名誉なことだった。長年の間には新聞記事をめぐってジャーナリストともめたこともあったが、私にわだかまりはなかった。ジャーナリストは(他の媒体と)競争しなければいけないし、編集者が絶えず目を光らせているのだ」

 私は、スポーツ選手や監督にとってメディアはやっかいな存在なのではないかと邪推していました。しかし、考えてみますと選手や監督やチームもスポーツ記者も、その存在意義はサッカーであり、サッカーを通して自己実現するという共通の目標を持った同志であり、利害関係者なのです。

 ステークホルダー・マネジメントとは、利害関係者に迎合してうまく立ち回ったり、逆にやりこめようと画策したり、調整役に徹することではありません。相手を理解しようと努め、リスペクトし、対等な立場で真摯に接することなのです。

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