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突然、取締役に。

2008年に発生した米リーマン・ショックで世界経済が大混乱、自動車生産も大幅減となりました。超円高とバブル時代の投資も足かせとなり、トヨタ自動車の09年3月期決算は最終赤字に転落。長いトンネルに突入しました。全社を挙げてPI80活動(1ドル=80円でも利益が出せる活動)など色々な切り口で改革に取り組みました。

小型ラインは東北のエンジン工場にも導入された

小型ラインは東北のエンジン工場にも導入された

この時期、私(当時65歳)に取締役(専務待遇)就任の御下命があったのも、今一度「原点回帰」という豊田章男社長の強い思いがあったと思います。

その頃、すでに新美篤志副社長(現ジェイテクト会長)の肝煎りでショップ(仕事の領域)軸活動が始まっていました。同一ショップの現場と生産技術のスタッフがチームをつくり、現地現物で現場の困り事に技術的メスを入れ対策を図り、横展開する活動です。これが軌道に乗り、今まで当たり前と思われていたことに風穴が開き、改革が進みつつあります。

例えば、ダイカストマシンで段取り替えの後の捨て打ち(試し打ち)なしで最初の1個目から良品にする挑戦。あるいは型の製作費を半減する試みや、生産ラインの長さも半分に抑えたスリムでコンパクトなライン造りなどがそうです。別の建屋でバッチ処理していた熱処理や塗装工程を小型設備で1個流しにこだわり、加工ラインにインライン化してリードタイムの短縮を図るなど、着実に具現化しつつあります。

こうした取り組みは昔、大野耐一さんや鈴村喜久男さんの指示で挑戦し、プロトタイプはできたものの当時は増産に次ぐ増産で日の目を見ませんでしたが、ようやくトヨタ生産方式のあるべき姿に近づきつつあるように思います。円安も追い風となり業績は回復しましたが、まだまだ安心できるレベルではありません。

企業と国家の存亡。

地産地消はモノづくりの原則ではありますが、日本は貿易立国であることを忘れてはいけません。為替変動に一喜一憂しないで済むよう海外に生産拠点を移せば企業は存続するものの、海外に移した分だけ国内の雇用が減少します。一次取引先メーカーは海外展開する力はありますが、二次・三次の中小企業は海外展開に課題が多いのが実情です。中小企業の破綻は日本の製造業の破綻、そして技術立国日本の破綻につながると考えるべきでしょう。

豊田社長がトヨタの国内生産300万台を死守すると言っているのは企業の存亡だけでなく、国家の存亡を考えた上での決断なのです。当然、日本で生産したモノが海外で競争に勝てなければ話になりません。日本の生産性を向上する余地はまだまだあります。大野さんが挑戦した時に比べ、我々ははるかに恵まれていると考えるべきです。

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