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日米を拠点とするM&Aアドバイザリー会社GCAサヴィアンの阿部美紀子ディレクター(42)は、もともと不動産鑑定士。不動産金融工学を学ぼうと入った一橋大学のビジネススクールでM&Aの世界を知り、在学中に現在の会社に転職した。在学中に2度の出産も経験。仕事、子育て、ビジネススクールという三足のわらじを履きながら、どうキャリアアップを果たしたのか。

大学卒業時は、就職氷河期の真っただ中だった。

慶応義塾大学経済学部でしたが、就職は大変苦労しました。バブルがはじけ、就職氷河期の時代。女子学生は特に厳しく、何か資格を持っていないと就職できないとも言われ、いわゆるダブルスクールが流行。周りにも公認会計士や税理士を目指す人が何人もいましたが、私は不動産に関心があったので、在学中に国家試験の不動産鑑定士を受験し、合格しました。

不動産鑑定士は、試験に合格しても、不動産関係の実務経験がないと鑑定士として登録できません。就職先としては銀行にも興味がありましたが、せっかく取った資格を生かしたいと思い、不動産鑑定で最大手の財団法人日本不動産研究所に就職しました。

一般に知られている不動産鑑定士の仕事は、銀行や企業から依頼を受けて土地や建物の査定をし、鑑定評価書を作るというものですが、私が配属されたシステム評価部は、銀行などが全国に所有する不動産や役所が固定資産税を徴収するための評価をコンピューターで簡単に計算できるようにするための計算式や仕組みを作るのが、主な仕事でした。

日本不動産研究所には7年いましたが、その間、日本の不動産市場に大きな変化の波が押し寄せていました。2001年には、日本独自の不動産投資信託市場「J-REIT」が創設され、それと前後して、外資系不動産会社が日本企業を買収する動きも出始めました。不動産金融工学という聞きなれない言葉も、ひんぱんに耳にするようになりました。不動産の概念が、大きく変わりつつあったのです。

不動産業界に身を置いてその変化を実感した私は、今後の自分のキャリアのためにも、不動産を金融という側面からもう一度勉強し直してみたいと思うようになりました。それがMBAを取ろうと考えたきっかけです。

働きながら、一橋大学大学院国際企業戦略研究科(一橋ICS)の金融戦略・経営財務コースに通い始めた。

不動産金融工学を勉強したかったので、最初から、ICSの金融戦略・経営財務コースに行こうと決めていました。選考は論文と面接だけなので、受験勉強のために予備校に通う必要もありません。授業は平日の夜だけなので、働きながら通えますし、週末は夫とすごす時間も確保できる。私には理想のビジネススクールでした。授業料は、会社の留学制度を利用し、全額会社に出してもらいました。

いざ授業が始まると、数学や統計の授業が非常に難しく、苦労続き。微分積分は大学時代にもやりましたが、すっかり忘れていました。クラスメートには理系出身者が多く、彼らにとっては造作のないことだったかもしれませんが、私は授業に付いていくのに必死。授業は夜の6時から9時まででしたが、微分積分の授業がある日は授業後も学校に残り、数学の得意なクラスメートにわからないところを教えてもらいながら宿題をこなし、帰るようにしていました。

苦労はしたものの、ICSのカリキュラムは理論と実務のバランスがよくて、無駄な授業は一つもありませんでした。当初の目的である金融工学の理論も学べましたし、日本を代表するような著名な経営者の話を生で聞くことができたのは貴重な体験でした。

クラスメートからもたくさん刺激をもらいました。未就職の大学の学生と違い、みんな社会人なので、しっかりとした目的意識を持っており、目つきが違います。また、銀行や生命保険など異業種出身の人たちと話をすると、それぞれ不動産に対する考え方や見方が違っていて、とても勉強になりました。例えば、不動産業界で働く私にとっては、不動産は全てでしたが、彼らにとっては、不動産はあくまで全体の一部。全体のためにその一部をどう生かすかという観点で不動産を見ていました。自分も、もっと広い視野を持たないといけないなと思いました。

ビジネススクールの1年目に長女を出産した。

実は、入学時にすでにお腹に赤ちゃんがいました。出産予定は8月。無理はできないので、卒業は、通常の2年ではなく、3年と最初から決めていました。ICSの金融戦略・経営財務コースは、生徒のほとんどが社会人なので、そのあたりは非常に柔軟です。最初の2年で必要な単位をすべて取り、残りの1年で卒論を書く計画を立て、授業のスケジュールもそのように組みました。ただ、出産後の忙しさを見越して1年目の1学期にかなり前倒しで授業を取ったので、1学期は非常に忙しかったです。

大きなお腹でビジネススクールに通うのは大変な面もたくさんありましたが、よかった面もありました。例えば、クラスメートと飲みに行けないのは残念でしたが、その分、時間を効率的に使えました。クラスメートが気を使ってくれたことも、とても助けになったと思います。8月に予定通り長女を出産。2学期は10月からでしたから、ベストのタイミングでした。

会社は、1年間、育児休暇を取りました。その分、勉強に充てる時間は増えましたが、生まれたばかりの赤ん坊の世話をしながらのビジネススクール通いは、けっして楽ではありませんでした。

まず、毎日2、3時間おきにミルクを与えなければなりません。赤ん坊だから泣きますし、病気もします。集中して読まないと内容が頭に入らないような難しい本は、子供が寝静まった夜中に読むようにしました。学校に行っている間の世話は、実家の母親や夫の母親、夫にお願いしたりしましたが、母親として子供を置いて行く後ろめたい気持ちは常にありました。そこまでして勉強する必要があるのだろうかという葛藤を抱いたことも一度ではありません。退学を考えたこともありました。家族のサポートには今も感謝しています。

インタビュー/構成 猪瀬 聖(フリージャーナリスト)

[日経Bizアカデミー 2016年2月29日付]

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