私の履歴書 復刻版 松下幸之助

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2011/12/19  (1/3ページ)

ナショナル自転車を持って(昭和40年春)ナショナル自転車を持って(昭和40年春)

 業界安定のために、営業本部長代行という姿で取り組んできた私は、昭和40年2月、岡山県の倉敷国際ホテルで開かれた第3回関西財界セミナーで「ダム経営と適正経営」という題で講演をした。借金経営が一般化し、信用膨張でうたかたの繁栄をみせていた日本経済が、金融引き締めや景気後退などによって、ペシャンコになったときだけに、私の講演には大きな関心が寄せられていた。私は、この講演の中で、堅実な欧米の企業経営を例にあげて、自己資本による自主経営の大切さを大要次のように説いたのである。

「わが国の各企業は戦後、借金経営でここまでやってきた。それはいわば非常時であったから、それでよかったかもしれない。しかし戦後20年たった今日のわが国は、もう戦後の非常時ではない。いわば常時と考えなければならないと思う。そうすると、戦後の特殊な事情のもとで許されてきた信用膨張、借金経営の姿を、いわば当たり前の姿として今日にそのまま当てはめることは好ましくない。もうそろそろ、常時における会社経営のあり方というものに、考え方を切り替えていかねばならない。アメリカのように余裕のある、安定した経営の姿に移行させていかねばならない。そういう決意をすべきときにきていると思う。その一つの経営のあり方として、私は、ここで“ダム経営”というものを提唱してみたい。

 ダムというのは、なんのために造られるかというと、川の水を流れるままに放っておいて、その値打ちを生かさないというのはもったいない。また、もし一度に水が増して洪水になれば、多くの被害が出るし、日照りになって水が足りなくなっても困る。そこで河川の適正なところにダムを設けて流水の調整を図り、あるいは水力発電に利用するわけである。つまり、天から受けた水は、一滴もムダにしないで有効に使おうじゃないかというのが、ダムを造る目的だと思う。また、そうしておけば安全である。会社の経営についても同じことが言えるのではあるまいか。つまり経営にもダムが必要ではないかと思う。

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