私の履歴書 復刻版 松下幸之助

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2011/12/26  (1/2ページ)

 いわば、“経済国難”ともいうべき不況から、日本経済がようやく立ち直りのきざしを見い出したころ、業界の競争は、いままでとは違った一段と激しい様相をみせてきた。すなわち、1、2年前の不景気のときの競争には、どことなく力の弱いものがあった。たとえば、腹の減っている人びとが相撲を取っているというような姿であったと思う。ところが、そろそろ景気も立ち直ってきたために、いわば腹の減っていた人も相当栄養をとって元気がついてきていた。いわゆる戦闘力が盛んになってきて、お互いに競争するわけだから、相撲そのものにも激しさが加わってくる。したがって、これからは、大いに市場を獲得しようということで、国内といわず海外輸出といわず、非常に力強い競争が起こってくる、と思われた。

 そういう激しい競争の中にあっても、松下電器は単に競争そのものにとらわれず、常に何が正しいかを考えて淡々としてその道を歩んでいかなければならない。それは非常にむずかしいことだが、われわれの本来もつ尊い使命を正しく遂行していけば、おのずからできる、必ず知恵才覚も刻々とわいてきて、個々に困難に対処する力も出てくるということを私は信じていた。しかし、一方当時の日本の社会情勢というか、物の考え方に、いささか疑念をもっていたので、私は昭和42年1月10日の経営方針発表会で、社会的なむだ、政治の上のむだ、お互い人間関係の上のむだ、その他国民各階層の活動上のむだを排除して、健全な繁栄の社会をつくり出す必要があると前置きして、次のようなことを話したのである。

「いま日本は、このところへまいりまして非常に反省をしなければならない。根本的に日本国民は反省をする時期に来ているのではないかと思います。いままで戦後20年間は、無我夢中で働いてきた。何とかして日本を再建せねばならないというので働いてきた。しかし、ここへまいりまして、その成果があって多少の余裕が出てきました。ですから、ここらで胸に手を当てて、今後の歩み、活動はどういう姿で進まねばならないかという検討期に立っていると思うのです。その検討期に立って再出発をすることが、きわめて大切ではないかと思います。つまり、そういうような段階に立って松下電器自身を見、そして個々の方策というものを打ち立てていくことが、大切ではないかと思うのです。そういうことを考えますとき、本当に思いを新たにいたしまして、日本の国、将来の世界というようなものを勘案しつつ、松下電器の再出発をするときではないかと思います」。

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