私の履歴書 復刻版 松下幸之助

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2012/1/5  (1/2ページ)

 第1次の資本の自由化が近づいた昭和42年2月、私は京都・宝ケ池にある京都国際会議場で開かれた第5回関西財界セミナーで、資本自由化について私の考えを述べる機会をもった。

 私は、その中で、日本の経済界が真に一人立ちになるためには、資本の自由化は避けられないことであり、むしろ、積極的に求めるべきである。それが日本の国家、国民全体の立場から考えてプラスになる、と話した。私は、前にも述べたように、この年の1月の経営方針の中で「いまこそ、日本は戦後の20年間を反省し、再出発すべきときである」と従業員に訴えたが、このセミナーでも、私はそれと同じ気持ちで、出席されている財界の方々に所信を披瀝【ひれき】したのである。

 そして私は、「経営の価値ということにも言及して、日本の企業をより一層力強く発展させるためには、お互いが経営の価値を高く評価して、外国の企業にそれを認めさせるとともに、経営にみがきというものをかけていかなくてはならない。そのみがきをかける一つとして、私は本来高い価値をもった経営について『経営とは芸術なり』という見方もできる」と話した。

 つまり、芸術は、非常に価値の高い創造活動であるが、経営もそれと同じように高い価値をもった創造活動といえるのではないだろうか。例えば、いま1枚の絵を描くという場合、絵を描くには、鉛筆なり絵の具なり墨なりを使って、さまざまな方法で白紙に何かを創造していくが、できあがった作品が、それを見る人に「これはすばらしい絵だ。この絵には作者の魂が生き生きと躍動している」という感動を起こさせるなら、その絵は立派な芸術作品といえる。同じように、企業経営も、経営者はまず基本方針を定め、人なり資本なりをどのようして調達するか、工場はどういうものを建てるか、また何をどうつくり、売るか、ということについて、白紙の状態からひとつひとつ積み上げ、各方面にわたるバランスを図って、細かい心くばりのもとに経営を進めていく。

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