変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック

●なぜ、成長のドライブがかかったのか

一般的には、マインドセットは短期間では変えられないともいわれている。しかし、それは本当だろうか。今のマインドセットがどのようにして形作られてきたのかを考えると、それはこれまでの経験をベースに培われてきたものであることがわかるはずだ。

当然のことながら、我々は日々新たな経験を積み重ねている。したがって、経験をベースにした「気づき」があれば、マインドセットを変えることは十分に可能だ。

作業者・フォロワーからリーダーに変われるかどうかは、一概に能力の違いによるものとはいえない。実行力や実務能力が高く、作業者としては優秀であっても、まったくブレークスルーせず、いつまでたってもリーダーになれない人もいる。

たくさん努力し、実践を積めば、ブレークスルーのための「気づき」や「きっかけ」を得られる確率は上がるが、それでは確率論にしかならない。では、どうすればいいのか。

BCG(ボストン コンサルティング グループ)において、大きな成長を遂げたコンサルタントに話を聞いてみると、その行動様式にいくつかの共通項があることがわかってきている。最近は、育成する側として、そういった「共通項」となる経験を意識的につくり出すようにしているし、育成される側にも明示的にそういった行動を意識するように伝えている。

それは大きく、以下の4つに分けられる。ロジカルに言うとこの4つはいわゆるMECE(漏れなく、重複なし)な区分にはなっていないが、経験則を言語化したものとしてご容赦いただきたい。

●クライアントと対峙する場に飛び込む――成長する経験(1)

コンサルタントにとって、一番大きな影響力を持つのがクライアントだ。

クライアントには、コンサルタントよりも多くの経験を積み、ビジネスパーソンとしても人間としても優れた人がとても多い。そうしたクライアントと真剣に対峙するというのは、駆け出しのコンサルタントにとっては非常に大きなプレッシャーとなる。結果、無意識にマネジャーの陰に隠れてしまう、資料を説明するだけ、話を聞いてくるだけ、といった一方通行のコミュニケーションにとどまってしまうことがある。

マネジャーが(海外出張、急病などで)不在のなかで自分が何とかしなければならない状況に追い込まれたときが、自分が変化するきっかけになったと多くのコンサルタントが言っている。

クライアントと真剣に向き合うことが成長の糧に=PIXTA

クライアントと真剣に向き合うことが成長の糧に=PIXTA

後ろ盾がなく、チームを代表してクライアントに向き合うなかで、真剣なぶつかり合い、健全な意見の衝突が生まれる。その結果、クライアントの志や信念、情熱に触れ、心から「何とかこの人の役に立ちたい」と思えるようになる。こうした体験を通じて、失敗したり壁にぶつかったりしても、乗り越えて成果をあげるまで頑張れるねばり強さも生まれてくる。

不思議なもので、チームのなかでどれだけプレッシャーをかけても、あるいは緊張感の高い環境をつくっても、同じような成果にはつながらない。人材育成において、「任せること」が重要であるというのは定石の一つだろう。

「背水の陣」「火事場のばか力」など、実はいろいろな表現で語りつくされていることではあるが、このような状況を意図的につくれるかどうかが、育成の巧拙を分けることになる。

●小さな成功体験を積む――成長する経験(2)

ブレークスルーのための「気づき」を得るまでのもう一つのきっかけに、成功体験がある。小さな成功体験を積むためには、発言してみる、提案してみるなど、自分自身で一歩を踏み出す必要がある。

自分で踏み出した結果が評価されたり、感謝されたりという成功につながれば好循環が生まれ、さらに一歩を踏み出せるようになる。指示されて動くというフォロワーから、自分で考え、目的を持って動くリーダーへ、マインドセットを変えるきっかけになるのだ。

前述の「クライアントと対峙する」という話と重複する部分もあるが、最近実際にあった例を紹介したい。木村が一緒に仕事をしていたある優秀な若手の話だ。

彼は、クライアントのある部門の成長戦略の立案を担当していた。クライアントとのミーティングは週に3回。BCGが市場のデータなどを分析した議論の材料を用意、先方が技術戦略や予算の執行状況などの情報を整理して持参し、どのような方向に進むべきかについて議論を重ねていた。

ある日の議論で、その若手コンサルタントは、クライアントがこだわっている「これまでのやり方」にどうしても違和感がぬぐえなかった。そこで、特段の分析や他社の事例があったわけではないが、「個人的な意見ですが……」と前置きをしながらも思い切って反対意見を言ってみたのだ。

このようなときのクライアントの反応は、一般的に2つのパターンに分かれる。大きな反発を招くか、あるいは新たな視点を提示したとして感謝されるか、である。

幸い、このときの反応は後者だった。その若手の発言をきっかけに、クライアント内部からも従来とは異なる意見が出るようになり、結果的にこれまでのミーティングのなかでももっとも議論が盛り上がる結果となった。

これが、「クライアントが求めているのは、有意義な議論を通じてビジネスが前に進むこと」「その際にパワーポイントの資料やエクセルの分析は必ずしも必要ではない」ということへの「気づき」となった(あらためて、こうして文章にしてみると当たり前すぎる内容に驚いてしまうが)。

この体験をきっかけに、彼の仕事の進め方に明らかな変化が見られるようになった。

それまでは、提案内容をマネジャーと相談しながら資料にまとめ、次回の会議で説明して提案する、という仕事の進め方をしていた。仕事を進めるうえでの暗黙のプロトコルに従うだけで、ビジネスを前に進めるということを一番に考えた動きにはなっていなかった。

ところが、この出来事があってからは、BCG内部の議論で新たな方向性が見えてきたら、資料を作るより先に、「今から行ってきます」と、クライアントのもとに行って、提案内容をぶつけてくる、という動きをするようになったのだ。

●挫折、失敗経験を上手に振り返る――成長する経験(3)

うまくいかなかった経験を振り返り、反省することは誰でもやっているはずだが、それを「上手に」行っているかどうかはまた別の話だ。失敗や挫折の原因を他人や環境に求めるのは論外。自分自身の行動を見つめ、振り返ることが、成長につながる振り返りだ。

ただ、これもうまくやらないと、結局は同じことをその後も繰り返してしまう。

すべての行動は、自分の「選択」の結果だ。たとえば、「1カ月で1キロ減量する」というダイエットに失敗した場合、「寝る前にビールを何度か飲んでしまった。次からは飲まないようにしよう」と決意するだけでは、おそらく次回も同じことを繰り返してしまうだろう。

「なぜ」飲んでしまったのか、「なぜ」我慢できなかったのか、そこまで分析し、自分の思考パターンを明確にしないと、次に同じ場面に出会ったときに異なる選択ができるようにはならない。

「風呂上がりに、のどが渇いて、炭酸の刺激があるものを飲みたくなってしまった」のであれば、「ビールの買い置きをしない」「炭酸水を買っておき、風呂上がりに飲むようにする」ことで、ビールを飲むという選択を回避できるだろう。

あるいは、「仕事のストレスを発散したくてビールを飲んでしまった」のであれば、そのストレスをほかの方法で取り除く必要がある。仕事帰りにジムに寄って軽く体を動かすなどしてストレスを発散できれば、ビールを飲むという選択をせずにすむかもしれない。

「なぜAができなかったか?」ではなく、「なぜ(Aではなく)Bという選択をしてしまったのか?」「どういう思考を経て、Bという意思決定に至ったのか?」が自分で分析できないと、失敗経験を本当に次に生かすことはできない。

挫折や失敗経験を振り返るときに、自分の思考や選択、意思決定を細かく分解して原因を突き詰めていけば、最後は自分自身の「内面の課題」に行きつくことが多い。この振り返りの習慣をつけることでマインドセットも変化していき、成長し続けられる体質に変わっていくはずだ。

●立場が変わる――成長する経験(4)

マネジャーへの昇進も大きな契機に=PIXTA

マネジャーへの昇進も大きな契機に=PIXTA

「ポジションが人を変える」と一般によくいわれる。実は、この法則はBCGにおいても当てはまるように思う。特に大きな変化が生じやすいのは、メンバーからマネジャーへの昇進だ。この昇進をきっかけに意識や行動が大きく変わる人たちは2つのタイプに分かれる。

一つは、「マネジャーになったのだからこうしなくてはいけない」という強い責任感がきっかけとなり、時間の経過とともに、いつの間にか本人の考え方自体も変わっているというパターン。周囲からの期待に応えるなかで、ある種の自己暗示にかかり、いつの間にか自らが先頭に立って周囲を引っ張っていく立派なリーダーになっているケースがある。

もう一つは、メンバーとしての自分とマネジャーとしての自分の意識や行動を完全に切り替えられるパターンだ。このパターンは、非常に優秀な外国籍のコンサルタントに当てはまるケースが多い。もしかすると、海外においては業務定義(Job description)が明確になっており、会社との契約をベースとして仕事をするのが一般的であることも影響しているのかもしれない。

ただし、普通は、役割が変わったからといって、すぐに意識や行動を新しいポジションにふさわしい次元に切り替えるのは難しい。「非常に優秀な」と形容したのはそのためだ。

難しいのは、このやり方が通用する人材かどうかを見分けることだ。上記の成長する経験(1)~(3)のパターンとは異なり、この(4)のパターンは先にポジションを与えるというリスクをとらなければならない。場合によっては、ポジションが変わっても結局はマインドセットを変え切れなかったというケースも発生するかもしれない。

育成する側として後悔しないためには、(一定以上のスキルを持っていることはもちろん)人の上に立つうえで必要な正直さや人の良さを持っているか、という点だけは厳しく見ておく必要がある。

[2016年2月19日公開の日経Bizアカデミーの記事を再構成]

木村 亮示(きむら・りょうじ)
BCG東京オフィス パートナー&マネージング・ディレクター
京都大学経済学部卒業。HEC経営大学院経営学修士(MBA)。国際協力銀行、BCGパリオフィスを経て現在に至る。幅広い業界のクライアントに対して各種事業戦略の策定・実行支援、新規事業立ち上げ、トランスフォーメーション(構造的改革)などのコンサルティングを行っている。BCGジャパン 人事/人材チームの総責任者として、コンサルティングスタッフの育成、採用、人材マネジメン卜などを統括している。アジアパシフィックの採用チームリーダーも務める。
木山 聡(きやま・さとし)
BCG中部・関西オフィス パートナー&マネージング・ディレクター
東京大学経済学部卒業。伊藤忠商事株式会社を経て現在に至る。広範な業界のクライアントに対して各種事業戦略、新興国戦略の策定・実行、トランスフォーメーション(構造的改革)、ガバナンス改革等の支援を行っている。BCG中部・関西オフィスの社内マネジメン卜を統括するとともに、BCGジャパン 人事/人材チームのコンサルタン卜育成委員会のリーダーとしてコンサルティングスタッフの育成に携わる。

新着記事

Follow Us
日経転職版日経ビジネススクールOFFICE PASSexcedo日経TEST

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック