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 米国生まれのボストン・コンサルティング・グループ(以下、BCG)が、世界第2の拠点として東京にオフィスを構えたのは1966年のことでした。それから50周年という節目の年に日本代表に就任することになったのが、杉田浩章氏です。世界的コンサルティングファームの日本代表が考える戦略と、日本企業の「これから」について聞きました。

初代リーダーは「日本的経営」の研究者

――1966年、BCGが東京オフィスを開いた時の初代リーダーは、ジェームズ・アベグレン氏でした。「日本的経営」の研究者でもある彼は、日本企業の強さの源泉が「終身雇用」「年功序列」「企業内組合」にあることを分析し、欧米に紹介したことでも知られています。それから半世紀以上が過ぎ、日本企業を取り巻く状況は劇的に変化しました。

たしかに、この50年の変化は大きかったと思います。実は、外資系コンサルティング会社のなかで、一番早く日本にオフィスを構えたのは我々でした。当時はやはり、外資系企業の日本進出をお手伝いする仕事が多かったのですが、それも、この20年あまりで大きく変化しました。

私が日本交通公社(JTB)を退職してBCGに入社したのも、約20年前の1994年です。そのころはまだ海外で開発された経営手法を日本に紹介しながら、どうやって日本企業の変革を進めていけばいいのか、我々自身も模索していた時期でした。

欧米では、そのころすでにコンサルティング会社を使うことが当たり前になっていましたから、各企業が持つ予算の枠内で、どこがどれだけの予算を取れるか、の競争をすれば良かった。しかし、日本ではそうはいきませんでした。これは今でもあまり変わってはいませんが、そもそも、コンサルティング会社を使う予算は各社に用意されてはいません。我々がビジネスをしようと思えば、「なぜ、コンサルティング会社を使うのか」「それによってどのようなリターンが得られるのか」をご説明し、納得いただくことから始めなくてはなりませんでした。

パートナー会議(経営会議)を開きますと、当時はよく「そろそろみんなで犬棒作戦をやろう」という声も上がっていました。犬も歩けば棒に当たるじゃないですが、経営者に手紙を書いて、電話を差し上げ、面会の機会をなんとかいただいて、プレゼンテーションに伺う。そういう、地道な営業をコツコツと繰り返していました。

二極化へと向かう業界の構造

――それが変わってきたのは、いつごろからですか?

大きく変わったのは2000年くらいからです。そのころに我々が考えていたのは、数ある日本企業のなかでも社会を大きく変革していくようなリーダー企業とパートナーシップを結ぶこと。単発のプロジェクトというよりも、1年、5年、10年という長い期間を通じた関係性のなかで、企業と一緒になって組織を変革していく。私がBCGのパートナーになったのも、そうした動きが始まった2001年の初めでした。

日本のスタッフは当時、まだ150人いるかいないかくらいでした。それが、今では500人超。この十数年で急速に増えました。グローバルでも日本でもビジネスは確実に成長していまして、2014年には、グローバルにおける売上高は前年比17%増の約45億ドル、従業員数も8%増加し、1万人を超えました。

手前味噌になりますが、これだけの成長率を維持できているコンサルティング会社は非常にまれだと思います。業界全体では今、生き残れる会社とそうでない会社が明確に分かれ、二極化に向かっている状態ですから。

――何が勝敗を分けているのでしょうか。

いくつかの要素が関係していますが、投資に対する意識の高さと大胆さ、それと実際に投資できる体力があるかないか、だと思います。

現在は過去の延長戦上で未来が描けない時代であり、それをけん引している大きな要素はデジタルです。デジタルのような新領域での専門性を高めようとすれば、それ相応の研究開発費が必要になります。その分野における目利き力を持ち、優秀な人材も確保しなくてはなりません。

加えて重要なのは経験量です。企業にとって今、最大の課題はトランスフォーメーション(構造改革)。これはつまり、3~5年という長い時間をかけて組織をどう抜本的に変えていくのかという課題であり、我々はこの課題解決能力において、圧倒的な経験数を蓄積していると自負しています。これまでに培った経験量とデジタルへの対応力、その乗数が勝敗を分けている。これは他の分野でも同じことが言えると思います。

求められる「経営のデジタル化」

――海外の経営学修士(MBA)取得者たちの間では、コンサルティング会社はすでにそれほど人気の就職先ではないという話も耳にします。

おっしゃる通り、学生の間で人気が高いのは、非公開のIT(情報技術)・デジタル系の有力ベンチャー企業。いわゆる「ユニコーン企業」と呼ばれる企業群です。ここ数年は若い人ばかりではなく、シニア層でも、引き抜かれていくことが多くなっています。

しかし、我々はこの点に関しても、それほど悲観してはいません。むしろ、彼らの持つ「文化」や「強み」を取り込み、彼らとの協働により、クライアント企業に対して、これまでにない価値を提供していく取り組みを始めています。

各拠点では今、デジタルを専門とするBCGの別会社を次々と立ち上げたり、買収したりしています。これら別会社と我々コンサルタントが組むことにより、戦略を構築するだけではなく、新製品や新サービスそのものを創るところまでを手がけられるようになりました。

従来のITコンサルティングは、デジタルをどう経営に生かすか、という観点から入っていましたが、我々が今、取り組んでいるのは「経営そのものをどうデジタル化していくか」です。ですから、主語がまったく異なる。わかりやすく言えば、かつてデジタルはCIO(最高情報責任者)が考えるべき課題でしたが、CEO(最高経営責任者)が考えるべき経営全体の課題へと移ってきたということなんです。

――具体的にはどんな場面で協働するのでしょうか。

我々の言葉でいえば「デジタル・トランスフォーメーション」。クライアント企業が持つ「強み」とデジタル化を通じたイノベーションがもたらす新たな価値創造を組み合わせ、これまでにない優位性をつくり出していく場合です。

例えば、BCGの欧米オフィスには「ガンマ」というアナリティクスを専門とする社内組織があり、そこでは、コンサルタントとはまったく異なるスキルを持つ人材を採用しています。プロジェクトにおいてビッグデータの解析が必要となれば、BCGのコンサルタントとそのチームが一体となって取り組みます。

昨今では、クライアント企業から具体的な新商品や新サービスを一緒に創造してほしい、と依頼されるケースも多くなりました。そういう場合には、「BCGデジタル・ベンチャー」が実際のプロダクトを作り、ユーザーインターフェースを構築し、立ち上げるところまでをサポートしていきます。この部分のビジネスは今、世界的に急速に伸びていまして、日本でも今年、BCGデジタル・ベンチャーを立ち上げる予定です。

(聞き手:日経Bizアカデミー編集長 代慶達也、ジャーナリスト 曲沼美恵/構成:曲沼美恵)

杉田浩章(すぎた・ひろあき)
1961年生まれ、愛知県出身。東京工業大学工学部卒業、慶応義塾大学経営学修士(MBA)。日本交通公社(JTB)勤務を経て、1994年、BCG入社。2006~2013年、BCGジャパン・システム オフィス・アドミニストレーター(統括責任者)。2007年、シニア・パートナー&マネージング・ディレクター就任。2014年、BCGクライアントチームアジア・パシフィック地区チェア、2016年1月から現職。

[日経Bizアカデミー 2016年1月15日付]

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