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課長の手前までは「できる人」が出世する(上)

~組織における人事評価と昇進のルール

どんな条件を満たせば、課長から出世しやすくなるのだろう。

最初に説明したように、出世の基本ルールはランクオーダートーナメントだ。となれば、まずは各ランクで出世候補者として名を連ねていて(同じランクにいて)、その中で競争順位を上げることが基本的な行動になる。

昔の日本企業なら、それは年功であり、かつバツがついていないことだった。ただしそれらは最低条件であって、候補になるための必須条件だった。年功基準やバツがついていないことを基準にしている企業はまだ多い。これからもそういう企業は一定割合は残るだろう。

しかしそうでない企業も増えてきている。こればかりは、あなたがいる会社の状況を踏まえて考えなくてはならない。

一方、昇進候補者の中から実際に選ばれる人の基準やプロセスは、表向き、公表されていないことが多い。だからこっそりばらしてしまおう。

◆人事評価と昇進には、どんな相関性があるのか

その前に、評価と昇進との関係を説明しておこう。

ここで言う評価とは、もちろん人事評価のことだ。年に1回か2回程度実施されるもので、人事評価の結果に基づきさまざまな人事としての処遇が決定する。

典型的には昇給額が決まる。あるいは賞与額を決める場合もある。

人事評価のための方法としてはさまざまなものがあるが、現在の標準的な会社では、目標管理制度による成果評価と、役職や等級に応じて基準を定める能力評価(会社によっては行動評価やコンピテンシー評価という場合もある)の2種類の方法のどちらかを採用することが多い。

昇給額や賞与額が人事評価によって決定する会社は多いが、実は、評価以外にも昇給額を決める要素がある。今は減ってはいるが、年齢がその基準の一つだ。年齢給という要素を持つ会社であれば、年を一つとるだけで、給与が数百円から数千円増える。年齢による昇給額は小さいことが多いが、評価の是非にかかわらず増える要素として導入している企業がある。

それ以外には、家族が増えることで支給される家族手当も、実質的には昇給だ。年齢と同様に、評価によらず決定する給与としては、皆勤手当などもあるが、これらの手当類を廃止する企業も多いので、今もらっている人はそれが常識だと思わないほうが安全だ。

◆上位ポストになるほど評価と昇進判断はリンクしなくなっていく

さて昇進についても人事評価の結果は活用されるが、後述するように100%完全に評価が反映されるわけではない。なぜなら、人事評価とは「過去を見る」ものだからだ。

目標管理制度で高い評価を得た、ということは、目標を達成したという事実をあらわす。それは過去の結果でありたしかに事実だ。能力や行動の評価についても、チームワークを発揮していた、とか、責任感のある行動をとっていた、などのたしかな事実が評価に反映される。

でもそれらの事実が、明日も同じような結果や行動をもたらすのかどうか、というと確実ではない。主任や係長くらいであれば、ポストの数にしばりもない。昇進といってもそれほど給与が増えるわけでもない。だからとりあえず人事評価の結果が良ければ、上の仕事をやらせてみよう、と考えることが多い。だから「卒業基準」が用いられる。

しかし上位のポストになるほど、とりあえずやらせてみよう、という判断はできなくなる。とりあえず社長をやらせてみよう、なんてことは絶対に起きない。だから、人事評価の結果を踏まえて、別の基準で判断をしはじめる。詳細は後述するが、人事評価がいつまでも使えるわけではない理由がそこにある。

明日の行動は誰にも見えないから、プラスアルファの基準を求めはじめる。それが「入学基準」だ。

会社によっては、評価結果を昇進判断基準として使い続けたい、という要望もあった。そこで人事評価をするときに将来の個人としての成長性や、将来の貢献期待をふくめて評価してはどうか、と考えた例がいくつかある。何社かでそういう検討を手伝ったが、結果としては使われることはなかった。「将来」は誰にも見えない以上、評価の時にどれだけ精緻な基準をつくったとしても、「評価をする側のお気に入りが高く評価される」度合を強めただけだったからだ。

上位ポストになるほど、人事評価と昇進判断とは厳密にリンクしなくなってゆくが、判断プロセスそのものが大きく変わるわけではない。次に、昇進判断の実務的プロセスを説明しよう。

◆昇進判断の典型的なプロセス

昇進判断のためのプロセスは、どの会社でもだいたい次のような順で行われる。

「滞留年数(第4回で詳述)の確認」:これをクリアしないとまず候補にならない
  ↓
「人事評価結果の確認」:昇進候補にふさわしいかどうかのチェック
  ↓
「昇進テスト類によるふるいおとし」:昇進に際して必要な知識の有無を判断
  ↓
「小論文確認」:実際には面接時の参考として使う程度
  ↓
「昇進面接」:各種基準の裏付けおよび人物判断
  ↓
「最終判断」:経営層などによって〇か×かを決定する

このプロセスを簡単に言ってしまえば「候補者を選ぶ」→「ふるいにかける」→「最終決定する」ということだ。滞留年数や人事評価結果の確認は「候補者を選ぶ」ステップだ。そして「ふるいにかける」ために昇進テストや小論文、昇進面接などを行う。「最終的に決定する」プロセスでは、社長の一存で決めることもあれば、役員の合議になる場合もある。外資系だと、役員の誰か一人が最終承認することでOKとする場合もある。

このプロセスは、昇進する役職によって重点が置かれる部分が変わる。その理由は、第1回でも触れた、課長までの出世ルールと、課長から部長までの出世ルールの違いにある。

いわゆる「できる人」が出世するのは課長手前まで

まず、「できる人」が出世するのは課長手前までだ。厳密に言えば課長手前となる課長代理や課長補佐、係長までであり、「できる」ということが卒業基準として評価される。ただし、会社によっては課長に昇進できる場合もある。特に課長という役職に権限が付与されていない「名ばかり課長」が大勢いる会社では、「できる人」が課長にまでなれることもある。

さて、課長手前までの昇進判断ではまず、「人事評価結果」が重視される。さらに、小論文でも面接でも、「効率的な働き方ができているかどうか」が重要視される。本人だけでなく、周囲を含めて効率性を高められているかが判断基準となることが多い。効率性を高められる、ということは、「仕事が速い」ということかもしれないし、あるいは「前例にとらわれない改善をしてきた」ということかもしれない。また、ビジネスのフロントである営業であれば、「高い売り上げをあげている」ということかもしれない。

短期的にわかりやすい結果があれば、課長手前までの昇進審査は通りやすいのだ。

管理職昇進で面接が重視されるようになってきている理由

一方、課長に昇進するとき、課長から部長に昇進する際には、第1回で書いた通り「入学基準」が重視される。

とはいえ、やらせてみるのでなければ、課長や部長にふさわしいかどうかが見えづらい。そのため、管理職への昇進の際には「昇進面接」を重視する企業が増えている(どのような面接が行われるのかは第4~5回で詳述する)。

ただ、管理職が明確な権限を委譲されていない会社だと、「卒業基準」を用いる場合もある。その際には、「安定的に結果を出した人」が出世する。課長手前までと同様の「卒業基準」だが、違いを挙げるなら短期ではなく「中長期」で結果を見るようになる。卒業基準として確認するとはいえ、安定した結果を出せるかどうかを見ようとするからだ。また、この段階になるともちろん、個人ではなく、率いている組織としての結果が重視されるようになることも変化の一つだ。

会社によっては、課長から部長に昇進する段階から経営層への選抜が始まることもある。特に機能系部門にその傾向が強い。

機能系部門とは、財務や法務、人事、ITなど、いわゆる全社にまたがる業務を担当する部門だ。機能系部門の場合、部長からそのまま取締役に昇進することも多いが、それは専門性が求められるからだ。ゆえに、部長を選ぶ段階で、「彼・彼女は将来取締役候補となれるだろうか」という最終判断がされることになる。

[日経Bizアカデミー2015年1月6日付]

 日経Bizアカデミーのアーカイブ記事のうちの人気連載を再掲載しました。次回は6月11日(土)に公開します。平康氏の書き下ろしの新連載も合わせてご一読ください。

◇   ◇   ◇

平康慶浩(ひらやす・よしひろ)
セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント
1969年大阪生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。アクセンチュア、日本総合研究所をへて、2012年より現職。大企業から中小企業まで130社以上の人事評価制度改革に携わる。大阪市特別参与(人事)。著書に『7日で作る新・人事考課』『うっかり一生年収300万円の会社に入ってしまった君へ』がある。

出世する人は人事評価を気にしない (日経プレミアシリーズ)

著者 : 平康 慶浩
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 918円 (税込み)

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