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上を目指す人には、通勤時間はムダでありリスク

「職住接近」を勧める人が増えた。会社の仕組みとしても、2駅ルールとか3駅ルールとかの形で住宅手当の支給方法を導入している場合がある。勤務地から2駅、あるいは3駅以内に住んでいると、通常よりも多めの住宅手当を支給しましょう、という仕組みだ。会社側のメリットとしては交通費負担が減るということと、従業員間のコミュニケーションが促進されやすいというようなことがあげられる。一方従業員側のメリットとしては、通勤ストレスが緩和されるし、また手取りとしての給与が増える。

では会社の近くに住めば成功しやすくなるのだろうか。会社の中で言えば出世することが典型だが、他にも専門性を高めたり、やりがいのある仕事を担当できたりするだろうか。

職住接近とは単純に言えば、ムダな移動時間を減らす取り組みだ。職住接近以外で言えば、営業に関する移動時間を減らす取り組みも積極的に行われている。客先訪問はなるべく地域別に固めれば移動時間が減る。そのために地域別担当制をしいたりするし、その発展形が支店、支社を設置したりすることだ。そしてビジネスパーソンが最も多く移動に使う時間が通勤であり、それを減らすことができればビジネスや生活に使える時間が増える。だからどんどん進めるべきだ、という論理が背景にある。

移動時間はまたリスクでもある。たとえば通勤に2時間かかるところから通っているとすれば、それだけ事故や災害にあう可能性も増える。電車が止まってしまえばアポイント時間にも間に合わない。災害が起きれば帰宅することも困難になるだろう。

ムダであり、リスクでもある移動時間を減らす取り組みはたしかに効率的だ。

すでに半数以上の人が「通勤時間30分未満」の所に住んでいる

職住接近には大前提となる考えがある。それは「ビジネスがすべてに優先する」という考え方だ。稼がなければ生きていけない。どうせ稼ぐのなら効率的に、あるいはストレスのない生活ができるようにする方がよい。そのためにムダとリスクをはぶこうとする考え方だ。

たしかに社会に出たてのタイミングであれば職住接近はとても有効だ。まず仕事を覚えることが必要だから、ビジネスを常に優先した方がよい。会社から2駅や3駅とはいわずとも、30分以内の通勤時間におさめることができれば職務に打ち込みやすくなる。就職にあわせて転居する場合に、あえて会社から遠くに住もうとする人は少数派だろう。もちろん家賃との兼ね合いはあるだろうけれど。

実際に統計を見てみると、職住接近はすでに進んでいることがわかる。総務省による「住宅・土地統計調査」に基づく全国の通勤時間は次のようなものだ。

全国では50%以上の人が30分未満の通勤時間であり、1時間以上をかけて通勤する人は20%未満となっている。東京は家賃が高いこともあり事情が異なるが、それでも30分未満、30分~1時間の通勤時間の人は確実に増えている。逆に1時間以上の通勤者は20%近くにまで減少していることがわかる。

職住接近の付随効果

会社が都心にある場合、職住接近は別のメリットも生み出すことになる。

都心に住んだ場合、さまざまな情報の入手が容易になるからだ。美術展やコンサートなどの芸術分野のイベントは都心で開催されることが多い。大規模書店も都心にはいくつも存在して、情報を網羅的に見ることができる。ビジネススクールも都心にあることが一般的だし、さまざまな会合も人が集まりやすい都心で行われることが多い。

さらに、人に会いやすいのも都心だ。さまざまな人が都心に住むことが増えているため、誰かと直接会って話したければ都心に住む方がよい。元経済企画庁長官で作家でもある堺屋太一氏が笑い話で話しておられたことにこういう話がある。

「FAXが普及する前、作家はそれぞれ思い思いの場所に住居を構えていました。しかしFAXの普及とともに多くの人が鎌倉あたりに住むようになったんです。次に携帯電話が普及し始めると、なぜかみんな東京の港区に住むようになったんですよ。つまり通信手段が発達するほど人は集まりたがるんですね」

それは情報そのものが一般化されてしまうからであり、だからこそ直接会って手に入れる生の情報の重要性が増す、ということだった。現在ではインターネットによる情報の一般化がさらに進んでいる。SNSやコミュニケーションアプリは人と人とをつながりっぱなしにするようになった。今後「直接会える地域性」というのはさらに重要度を増していくだろう。

「つながりを持ちやすい場所」に住むことは人生においても有効

職住接近は今の会社において出世しようとするのなら、とても有効に機能する。特にどん欲に出世を目指す人は時間のムダを極端に嫌う人が多い。通勤時間はその最たるものだから、減らすに越したことはない。

しかしもっと重要なことがある。それはつながりを持ちやすい所に住むという視点だ。

社会に出たての頃や出世を目指す場合には、求めるつながりは今いる会社のためのものになるだろう。だから会社のそばに住むという選択肢が重要になるのだけれど、人はいつまでも会社を最優先にして生きていられなくなる。

社内の出世競争の結果、どれくらいの割合で管理職になれるのかといえば、平均してすでに30%を切っている。職住接近でビジネスに注力してきたとして、管理職になれていなければ別の選択肢を考える必要が出てくるのだ。また管理職になっていたとしても平均して55歳で役職定年を迎えることが増えた。

60歳を過ぎれば再雇用となり年収は大幅に減る。

誰しもがやがて会社を去るのだ。

その年齢は引き延ばせば65歳かもしれないが、70%の人にとってはもっと早い。たとえば今40歳前後で課長昇進の目が見えていなければそのタイミングが来ている。課長になっていたとすれば45歳が部長になれるかどうかを見極めるタイミングだ。部長だとすれば50歳が役員になれるかどうかがわかるタイミングになる。その年齢を超えてしまうと、職住接近による時間効率アップはさほど意味を持たなくなる。そして社内の出世ではなく、別の出世を考えることになる。専門プロフェッショナルとして生涯現役を目指すか、起業するか、さまざまな副業を持つか。それが社外での出世だ。そしてそのためにはつながりがとても重要になる。

つながる先は同僚でも家族でも友人でも地域でもよい。できれば新たなつながりを作りやすい方が望ましい。そんな視点で住居を選ぶタイミングが多くの人にやってくるのだ。

要約
社内で出世するためには職住接近はとても効率的
40歳、45歳、50歳それぞれのタイミングで住む所を考え直すことが有効。それは社内での出世を目指す生き方から、社外での出世を目指す生き方に変わるタイミング

◇   ◇   ◇

平康 慶浩(ひらやす・よしひろ)
セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント
1969年大阪生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。アクセンチュア、日本総合研究所をへて、2012年よりセレクションアンドバリエーション代表取締役就任。大企業から中小企業まで130社以上の人事評価制度改革に携わる。大阪市特別参与(人事)。著書に3万部超のヒットになった『出世する人は人事評価を気にしない』のほか、『7日で作る新・人事考課』『うっかり一生年収300万円の会社に入ってしまった君へ』がある。

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[日経Bizアカデミー2016年1月12日付]

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