変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック

残業は評価されるのか

毎日残業している人と、いつも定時で切り上げる人。どちらが出世しやすいだろう。

会社の中で残業が特に多い人というのは限られている。そのほとんどは優秀だからこそ仕事が集まってきてしまい、否応(いやおう)なく残業しなくてはならないタイプだ。だから、残業する人が優秀だ、という印象を持ちやすい。

しかし一定の割合で、残業代を稼ぐために残業をしている人もいる。このタイプの特徴は、通常のワークタイムに何をしているかわからないというものだ。忙しそうにはしているのだけれど、今その仕事をしなくてもいいだろうと思えるようなことや、あるいはその人がやらなくてもよい仕事などに時間を使っている。さすがにあからさまにゲームをしたり寝ていたりするようなことはないが、優先度も重要度も低い仕事に時間を使っている。またこのタイプは残業を楽しんでいるところもある。残業をしている自分が好きで、おまけにお金も稼げるのだから一石二鳥だ。

単に仕事が遅いタイプも残業が多い。1時間で終わるような資料作成に何時間もかけている、という場合もあるが、思い込みが強い人もいる。上司に指示された仕事に対して自分なりの考えで80%くらいまで進めてしまう。途中で上司に確認すれば方向性を正せるにもかかわらず、そうはしない。結果として独りよがりの資料を作ってしまい、抜本的にやり直しが必要になる。そうして残業をするわけだが、このタイプは残業が好きではない。だからやり直しを命じた上司に対して反感を持つようになり、それが言動にもあらわれるようになる。

会社の中にこの3タイプが入りまじっている場合、単純に、残業=高評価、ということにはならないことがわかるだろう。自立型の会社はもちろん、環境適応型でも、単に長時間残業をするだけでは評価は高まらない。

無茶振りに応えても、上司の評価は上がらない

では逆に、残業を断ったらどうなるだろう。

今日やらなければいけないことも終わったし、そろそろ帰ろうかと思っているところに上司が近づいてくる。

「これ、明日の朝イチまでにレポートにまとめておいて。朝10時にはお客さん先に持って行くんだけど、とりあえずできたら僕の机に置いておいてくれたらいいから」

そして手にしている書類の束を机に置いて足早に去っていこうとする。

――いやちょっと待ってください。今日はこのあと家族で食事の予定を入れているんです。今からこの量を読み込んでレポートにするとなるとどう考えても終電になってしまいます。絶対に必要なものじゃなければ勘弁してくださいよ。そもそも絶対に必要なんだったら、前日の夜まで指示を忘れていた上司であるあなたの責任じゃないですか。

そんな言葉を言いたくても言い出せない人も多いだろう。

人事の仕組みとして言えば、一人ひとりの残業時間の合計が週あるいは月あたりどれくらいになっているかで判断されることになる。そもそも残業を指示するためには、就業規則をもとに36(サブロク)協定という取り交わしをしていなければいけない。そこで定めた以上の残業は命じることができませんよ、という取り交わしだ。しかし逆に言えばその時間までは会社側に命令権が生じている。だからよほど残業が続いているのでなければ、上司からの残業指示は断ることができない。これは休日出勤も同様だ。

ただし残業を断ったとしても、人事評価の観点から言えば不利益はない。たしかに法律上は会社側が残業を命じることができるようにはなっている。しかし冠婚葬祭が事情だったり、あるいは体調不良が原因だったりすれば残業は断れるはずだ。仮にあなたがプライベートを犠牲にして残業を引き受けたところで、上司からの評価が良くなることはまれだ。上司の心証を悪くしないような理由で断れるよう工夫をこらしてみてもいいだろう。実際にはこの上司の心証というものが問題ではあるのだけれど。

ロイヤリティ型企業も長時間労働を是としない時代

ロイヤリティ型の会社の場合、長時間労働をよしとする時代はたしかにあった。会社に対する忠誠心を確認する手段として残業が機能していたからだ。一番遅くまで働いている人にあわせてみんな残ることで、部署としての一体感を醸成してもいた。

しかしロイヤリティ型の会社であっても、現在では長時間労働を是とはしなくなっている。会社側に従業員の健康を守るような指導が増えており、それは体調だけでなくメンタル面も含んでいる。前述のような無茶な残業を指示する上司ばかりの会社だと、それを理由に社員に転職されてしまうだろうし、ブラック企業というレッテルを貼られてしまう。

とはいえ定時前からそわそわし始め、定時になって数分でPCからログアウトしたり、出退勤を確認する社員カードをカードリーダーにかざすようなことをしていては印象が悪い。それでは上司からの評価はもちろん、周囲からの評判まで悪化させてしまう。

印象や評判についての人事のルールとしては、多面評価という取り組みが増えている。これは上司からの評価を裏付けるために、その人の普段の行動を同僚や部下に確認するための仕組みだ。弊社セレクションアンドバリエーションでも数多く受託しているこの仕組みは、WEBアンケートを使うことでとても容易に実施することができるようになった。

多面評価の特徴は、しっかりした評価者研修を受けていない人に評価を依頼する点にある。そのため、印象が評価に影響する傾向が強くなる。だから普段から印象が良くない人は、多面評価でも結果が悪くなりやすいのだ。

もちろんその結果をそのまま人事評価に使うことは少ないが、上司目線とその他の目線のギャップを踏まえて経営層がさまざまな人事判断に用いることが増えている。

残業がマイナス評価になる、最近の人事評価制度

人事評価制度の中に、残業について言及する指標を設定する場合がある。それはたとえば次のような評価指標だ。

評価指標「効率的な業務遂行」
マイナス評価になる行動 ムダな残業が多い。私語や業務に関係のない行動が多い。
プラス評価1レベル 効率的な業務遂行についての学習を怠らず、自らの意見・方針を表明できている。
プラス評価2レベル 業務の効率性を高めることで、所属する組織の業績に貢献できている。
プラス評価3レベル どのように業務の効率を高めるべきか、その結果としてどのように業績に貢献できるのかを指導できている。
プラス評価4レベル 過去の否定をいとわず、現在の環境に適した効率的な業務遂行手順を実践し、仕組み化できている。

特に近年弊社で人事評価制度設計を行った企業のほとんどでこの指標が採用されている。つまりムダな残業は残業代稼ぎにはなるが、評価ではマイナスになるのだ。評価されないどころの話ではない。

新着記事

Follow Us
日経転職版日経ビジネススクールOFFICE PASSexcedo日経TEST

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック