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育児と出世の期間的関係

企業タイプごとの上司攻略(1) ロイヤリティ型ではアピールしすぎず素直さを示す

ロイヤリティ型企業の場合と環境適応型の会社、自立型の会社のそれぞれで面談の実施方法は異なるだろうか。企業タイプと面談との関係は、上司の特徴にあらわれやすい。それぞれの企業タイプごとの上司をどのように攻略すればよいかを考えてみよう。

ロイヤリティ型企業の上司は、会社に対する忠誠心を示しながら出世してきている人たちだ。彼らはもちろん彼らのさらに上の幹部たちに認められている。特定の幹部とのつながりを持っていることも多い。派閥とまではいかずとも、後ろ盾になってくれている人がいたりすることがロイヤリティ型の特徴だ。会社に対する忠誠心は、特に自分を引き上げてくれた人への忠誠心の形をとっていることもあるのだ。

そんな彼らには次のような特徴がある。

ロイヤリティ型企業の上司の特徴
・社内序列に敏感
・会社が指示したことについて素直
・失敗をしないことについての意識が強い

自分自身が上に引き上げられてきた経験から、彼らはまた自分が誰かを引き上げることを考えている。その時、「自分に対して忠誠心を持って行動できるかどうか」を重要視している。

上司の指示が仮に自分の意思に反していたとしても、彼らはそれを守ってきた。同じように部下もそのことを守れるかどうかを確認しようとする。

そして自分がそうであったように、誰かの後ろ盾になるタイミングでは、その人が失敗しないことを常に意識している。なぜなら引き上げた人物の失敗はそのまま自分自身の人を見る目として評判をたてられてしまうからだ。

だからこのタイプの上司との面談を受ける場合には、言い訳を避け、アピールを弱めた方がよい。アピールしすぎることは忠誠心を示すことにはならないからだ。彼ら自身がそうしなかったからこそ課長や部長、役員にまで出世してきていることを忘れてはならない。ロイヤリティ型企業の出世は、人事は天命、というように運不運で決まるものと考えられている。もちろんその背景には社内政治や人間関係が深く関係しているのだ。

ロイヤリティ型企業でも、中途採用の上司、出世頭の上司には注意

ごくまれに、会社自体はロイヤリティ型なのだけれど、直属上司がそうでない場合がある。中途採用で自立型から転職してきていたりするような場合もあるし、あるいはとびぬけた出世頭として強烈な成果を出しながら登ってきたような人の場合だ。ではこのタイプの上司であればアピールしていいのかといえば、そうではない。なぜならこのタイプの上司は、社内政治に対して弱い面があるからだ。

ある上場メーカーの部長がそういう人だった。とびぬけた専門性を持って活躍しており、その成果は社内の誰も否定できなかった。そしてその部下である課長も社内の平均よりは早く出世しており、会社はロイヤリティ型だったけれど彼らの部署だけはむしろ自立型の組織風土を持っていた。

しかし数年後部長は異動した。有力な部門の部門長への昇進だったが、彼の専門性とはなんら関係のない部署への異動で、それは実質的には懲罰的な異動だった。部長のさらに上司である役員たちが彼を快く思っていなかったのだ。そしてその下にいた課長もその部署の部長に上がるのではなく、今までと関係のない部署で一からやり直すことになった。課長は直属の部長に対してだけでなく、その上の役員たちにも常日頃からアピールする言動が強く、そのことを疎まれてしまっていたのだ。

だからロイヤリティ型の会社で上司にあえてアピールするとすれば、定められた面談時間を確実に確保することにとどめておいた方がよい。およそ1時間の面談が人事から指示されているとすれば、仮に5時から始めた面談が20分で終わりそうになっても、さらに質問をしよう。あるいは人事評価に関係しない雑談でもいい。そして確実に1時間を使い切る。

また彼らから出てくる意見や指示に言い返さずに耳を傾けることも重要だ。それはあなた自身の素直さとして受け止められる。その場の評価がどうであれ、面談で素直な人物だという印象を得られればその後のビジネスにおいて確実にプラスになる。出世に必要な推薦も受けやすくなるだろう。ロイヤリティ型の会社では、上司推薦がなければまず出世は不可能だ。

企業タイプごとの上司攻略(2) 環境適応型では、「議論できる相手」であることを示す

環境適応型の上司の場合、その多くが激変を経験している。過去にはロイヤリティ型であったとしても大規模な早期希望退職が実施されていたり、人事評価制度改革による評価の仕組みの変革を経験したりしている。このタイプの企業では中途採用の管理職も多い。彼らの特徴は次のようなものだ。

環境適応型企業の上司の特徴
・今年の業績に敏感
・程度の差はあれ、会社に対して不信感を持っている
・部下であっても競争相手として見ている

彼らの多くが経験している人事上の変革の際には、常に「今年の業績が悪かったから」という枕詞がつけられていた。だから彼らは将来ではなく今年の業績を常に気にしている。会社によってさまざまだが、一律10%の給与カットをしていた会社もあるし、賞与を半減させた会社もある。年功昇進があたりまえだったけれど、それを凍結し、結局社外から来た人材にポストを当て込んだ場合すらある。今年の業績が悪いと、また何が起きるかわからない、という不安があるのだ。

そして不安は不信につながっている。年下の後輩が上司になってプライドを傷つけられたり、賞与を減らされて30年で組んでいたローンの支払いに苦労したりしていればなおさらだ。結果として部下を育成しようとするより、自分のポストを守るために部下を蹴落とそうとする人すらいる。特に40代後半から50代であれば課長であっても部長であっても、自分自身の将来について不安を持ち、今のポストや職務を維持したいという思いがあってもおかしくはない。

一方で環境適応型の会社の場合、あなた自身が出世する際に上司からの推薦が重要でない場合もある。環境適応型の会社は通常の人事評価に加え、多面評価を導入していたり、部門をまたがったプロジェクト組織を多用していたりする。そこで得られる情報をもとに出世、つまり従業員の昇格判断を行うことも多いので、目の前の評価や上司の推薦が出世判断に占める要素は減少しつつある。そうしなければ抜擢も難しいからだ。

だから環境適応型の会社では上司と意見が対立したとしても問題にならないこともあるのだ。そのためこのタイプの企業で上司との面談をする場合、特に事実を重視しよう。どう思うかということではなく、結果、環境変化、行動などの事実を具体的に提示することだ。その事実について上司がどのように判断するか、ということよりも、「議論できる相手」であることを示そう。会社に不信感を持ち、部下を競争相手として見ている上司から、仲間として見られるようにすることだ。そうすれば少なくとも低すぎる評価や、悪い評判を流されることはなくなるだろう。

企業タイプごとの上司攻略(3) 自立型では、強い意欲と自己責任の意思を示す

最後に自立型の会社の場合だが、このタイプの企業の上司には次のような特徴がある。

自立型企業の上司の特徴
・自分の成果に一番興味がある
・会社とは対等の関係にあると考えている
・部下との関係性は使えるか使えないかで判断する

自立型の会社の上司とは、自分が生み出した成果を認められて出世してきている。だから成果とは自分自身のプライドが立脚するところであり、それがすべてだと考えている場合も多い。実際のところ経営層に近い立場になるほど、成果のみで評価する考えはあたりまえになる。いくら良いマネジメントをしていても成果が伴っていないと、会社であれば倒産してしまう。自立した生き方とはそのような経営者の視点で考えるということでもあるので、努力をまったく認めなくなる場合もあるのだ。

また成果が明確になるにつれ、自分と会社との関係をデジタルに理解しやすくなる。去年は10億円の売上と1億円の利益を会社にもたらしたから、今年の年収は少なくとも3000万円、という要求をする場合もある。会社が拒否するなら顧客を連れて別の会社に行きますよ、といった具合だ。ある意味、会社の看板の下で自分のビジネスを持っているような状態だ。だから部下に対しては、自分のビジネスに使えるかどうかで判断することになるのだ。

このタイプの上司とは、相性があえば生涯の関係を築けるだろう。どちらかが転職したとしてもつながりは続く。自然と連絡をとりあい、再び一緒に働く場合も多い。しかしそうでなければ知り合い程度で終わってしまう。たとえ上司部下として10年一緒に仕事をしたとしても、転職すればあっさりと切れてしまうような関係になる。

彼らが面談の場で前提とするのは、評価とは会社と個人との契約の結果であるということだ。そして面談の場は、その結果についての合意を得るところだと考えている。コーチングスキルでの指導育成を行う人もいるだろうが、基本的には自己責任を求めている。

そして今期の結果を前提として、来期にどのような成果を生み出そうとしているのかを確認してくるだろう。今年の結果が良かったのなら、さらに上を目指すのか。今年の結果が悪かったのなら、それを自己責任として改善できるのか。そのような将来のことを確認しようとする。

故に彼らとの面談の場であなたは強い意欲を見せなければいけない。自己責任に足るスキルがあることは当然として、さらにそのスキルを活用して成長を目指し、成果を生み出そうとする意欲だ。ロイヤリティ型の上司に求められる素直さはあって損にはならないが、素直さだけであれば意思や意欲がないものとみなされる。また環境適応型の上司に求められるような事実に基づく議論は、自立型の会社の上司にとってはあたりまえの話すぎて議論にならない。だからどうしたいのか、を伝えなければいけない。

もちろん実際には、これらの企業タイプ別の分類が入り混じることも多い。ロイヤリティ型企業であっても自立型の会社から転職してきた人が上司になる場合はあるし、その逆もまたしかりだ。

上司がどのタイプの人なのかは、彼が一番長く勤務してきた会社のタイプを考えれば間違うことは少ない。特に新卒から3年以上勤務した会社があればその会社の社風に強く影響されているだろう。それはもちろん、あなた自身を振り返ってみればわかるはずだ。

要約
自己評価を高くして面談で強くアピールすることは短期的には得をする。それはアンカリングという心理的な働きが原因
結果以上のアピールを繰り返すことは長期的にはマイナスの結果を生む
面談を通じて上司に対してコーチングスキルを発揮することが面談のうまい受け方
企業タイプに応じた上司の特徴を考えて準備するとさらに面談をうまく使えるようになる

◇   ◇   ◇

平康 慶浩(ひらやす・よしひろ)
セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント
1969年大阪生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。アクセンチュア、日本総合研究所をへて、2012年よりセレクションアンドバリエーション代表取締役就任。大企業から中小企業まで130社以上の人事評価制度改革に携わる。大阪市特別参与(人事)。著書に3万部超のヒットになった『出世する人は人事評価を気にしない』のほか、『7日で作る新・人事考課』『うっかり一生年収300万円の会社に入ってしまった君へ』がある。

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