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人事考課で下がるモチベーション

経団連によれば、2012年のボーナスは3年ぶりに前年実績を下回ったもよう。全体的に厳しいところにもってきて、個人の業績考課の結果がよくなければさらに低くなってしまいます。賞与の明細を見て「納得できない」と感じる方も少なからず出てくるでしょう。

そして、3月末にかけ、今度は月次給与に影響を及ぼす人事考課を行う企業が多いもの。これらの人事考課でモチベーションを上げる部下は少なく、下がる部下が多いのが実態です。

一方、上司にとっても考課は気が重い仕事です。手間のかかる作業である上に、往々にして部下は査定に対して不満を持ちます。

今回は、双方にとってやっかいなイベントになっている人事考課について考えます。

上司の言い分

人事考課は気が重いですよ。部下の賞与や月給に影響を及ぼすわけですから。しかも、作業的にもかなり大変なんです。部下のいる前でやるわけにもいかず、会議室にこもってやったり、家に持ち帰ったりしています。

こんなに苦労して作業しているのに、部下は不平ばかりを述べます。私はフェアにするために、人事考課の結果を部下にオープンにしています。でも、毎回不満げな表情をされるので、もうオープンにするのはやめようかと思っています。

それから、自己評価の甘い部下は困りますね。甘い点をつけるので、こちらの評価とギャップが大きくなって、すりあわせが大変です。

だいたい、私がつけた点がそのまま賞与や月給に反映されるわけではないんです。私の上長が二次考課をしますし、部門間調整もあります。でも、賞与や昇給が少ないと部下は私を恨みます。たまりませんね。

私自身も考課される身ですが、考課に納得しているわけではありません。つくづく人事考課は難しいものだと思っています。

【部下に求めること】

*考課結果は素直に受け止めてほしい

*自己評価は厳しくしてほしい

*直属上司のつけた点数がすべてでないことを理解してほしい

部下の言い分

人事考課のたびにモチベーションは落ちます。そもそも、目標は最初から無理なレベルに設定されていて、いくらがんばっても未達成です。数字だけではなくてプロセスも見ると言っている割には、あまりそれは反映されません。だいたい上司は僕の仕事ぶりをちゃんと見ていないんです。

考課結果をオープンにしてくれることはありがたいと思っていますよ。他の部署では教えてくれない上司もいるらしいですから。ただ、納得のいく話をしてほしいですね。前回は、「部門の業績が悪いから、あまり高い点はつけられない」と言われたのですが、それじゃ納得できません。

それから、「あの時こういう行動をとったから減点した」と言われることがあるのですが、その時は何も言わないんです。それはフェアではないと思います。

あと、自己評価を低くつけると、そこに付け込まれて低い評価にされてしまいそうなので、自己評価は高めにつけます。こちらも生活がかかっていますから。

いろいろ考えると気が滅入ります。いっそ人事考課などなくなればいいと思っています。

【上司に求めること】

*実績だけでなくプロセスの努力もきちんと評価してほしい

*もっと部下の仕事ぶりをよく見て考課してほしい

*減点する前にきちんと言ってほしい

*考課点の説明をしてくれるなら説得力のある話をしてほしい

納得度の高い人事考課のために

人事考課については、上司も部下もすっきりしない思いを抱いているようです。お互いのために提案します。

上司への提案

人事考課に関し、最も重要なことは人事考課を部下指導・育成のシステムのひとつと考えることです。指導・育成のシステムとして有効なものにするためには、以下の3つの行動が必要です。

(1) 対象になる期間の前に、何をすればどう報われるのか明示しておく

(2) 査定の期間中は、好ましくない行動は必ず注意する。また、行動記録をつける

(3) 考課結果に関する話し合いをする

(1)を行うためには、管理職自身が考課制度、考課項目について熟知している必要があります。制度がよくないと批判してもなにも生まれません。まずは、現行制度をしっかりと理解してください。

(2)に関連して、その時は注意せずに考課で減点するというのは、暗闇で後ろから切りつけるようなアンフェアな行動です。きちんとイエローカードを提示し、改善を促し、繰り返し同じような行動をとった場合には、確信を持ってマイナスをつけるようにします。加えて、根拠のある説明をするためにも記録が必要です。

(3)は考課を指導・育成のシステムとして活用するために必要なものです。なぜ、その点数なのか、について説明した上で、来期どうしてほしいのかを伝えます。

人事考課の作業時期は繁忙期に重なることが多く、大変であることは承知しています。ただ、人事考課をするということは、人を斬ることができる刀を渡されたことを意味します。それだけ慎重にする必要があるということです。

部下への提案

納得のいく評価を得るためには、仕事で誰が見てもわかるような実績を上げるのが一番です。ただ、昨今の環境の中では、簡単にいかないのも事実です。実績を上げること以外にも、考課に関連してできることはやっておく必要があります。

部下として、やっておきたいことは、期が始まる前に、上司に評価の仕組みをきちんと聞いておくことです。何をするとどう評価されるのかというゲームのルールを確認します。制度がどうなっているかだけでなく、自分にどういう行動が期待されているのか聞いておきます。

また、上司が自分の仕事ぶりを見ていないと思うならば、日常の報告をプレゼンと位置づけて行うことです。さらに、自己評価について裏付けを記入する欄があったら、力を入れて書いてください。管理職としての経験上、自己評価の裏付け記入欄を読むと、高くつけざるをえないような、プレゼンのうまい部下がいました。長い目で見ると大きな得をする部下です。ポイントは、裏付けとして数字や事実をきちんと書くことです。自己考課を高めにつけるより、裏付けをしっかりと書く方が効果的です。

*期が始まる前に評価の仕組みと自分への期待を行動レベルで確認しておく

*日常の報告をプレゼンと位置づけて行う

*自己評価の裏付け記入欄は数字と事実を中心にきちんと書く

人事考課の難しさの根本は、人が人を評価することにあります。上司・部下ともにその点を理解した上で、歩み寄ってほしいと願っています。

[2013年1月16日掲載の日経Bizアカデミーの記事を再構成]

濱田秀彦(はまだ・ひでひこ)
株式会社ヒューマンテック代表取締役、マネジメントコンサルタント
1960年東京生まれ。早稲田大学卒業後、住宅リフォーム会社に就職し、最年少支店長を経て、大手人材開発会社に転職。トップセールスマンとなり、営業マネージャー、経営企画室マネージャー、システムソリューション部門責任者を歴任後、独立。現在は、コンサルタントとして、公開セミナー、個別企業の研修に出講しており、これまで指導したビジネスパーソンは1万7000人を超える。

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